本稿で私がもっとも書きたかったこと。それこそが、本節で展開するプールと水中ウォーキングというスポーツ・アクティビティの魅力とメリットである(もちろんリハビリテーションとしての効果も高いのだが、リハビリがほぼ完了した現在でも私は引き続き毎日のように継続している)。

 というのも、ジョギング・散歩をする小説家や思想家の話というのはよく聞くと思うのだが、プール、しかも水泳ならまだしも水中ウォーキングとなると、ほとんどその魅力どころか、その実態すらあまり言語化されていないように思うからだ。たしかに水中歩行は、別にオリンピックやインターハイなどのスポーツ種目として選ばれているわけではないから、「観戦」の対象になることはない。そのためプロの水中ウォーキング選手などもいないので、その魅力をメディアを通じて知るというきっかけはどうしても希薄にならざるを得ないという事情もある。

 そこで以下本稿では、ぜひこの半年間の私の実体験をまとめて、プール・ウォーキングの魅力とメリットを思う存分レポートしたいと思う。

ファースト・コンタクト&インパクト:プール・ウォーキングとの出会い

 そもそも私がプール・ウォーキングを始めたのは、手術後の歩行機能の回復というリハビリテーションのためだった。実際には、入院中に私のリハビリを担当してくださった理学療法士の方が、「退院後のスポーツとしておすすめなのはプールかゴルフですよ」と教えてくれたのである。

 私は後者のゴルフは一切やらない。正確には大学時代に一回だけラウンド(18ホール)を回ったことがあるのだが、186というとんでもないスコアを叩き出してしまい(普通は最初でも120〜160くらいらしい)、トラウマになって二度とやるまいと決心し、それ以来やっていない。そして私は、自動的に前者のプールを選択することになった。

 とはいえ、私は最初プールにあまり気乗りはしていなかった。まだ30代前半の頃、私は体重維持のために一時期ジムを数回利用していたことがあり(私が加入していた健康保険組合では、コナミスポーツやセントラルスポーツといったジム施設を1回ずつ割安料金で利用することができたのである)、そのときプールでの水泳も行っていた。しかしそのときの水泳・プールに対する感想は、「有酸素運動ではあるが、息継ぎが面倒でつらい・苦しい」「すぐに泳ぐのに慣れてしまい、あまり力をかけずに運動できるため、カロリー消費効率は高くない」「わざわざ水着を用意して着替えるのが面倒くさい」といったものであった。そしてそれ以来、特にプールに通うことはなくなっていたのである。

 しかし今回は、とにかく人工股関節を入れたあとの歩行復帰訓練が主目的である。理学療法士の先生が推薦しているのだから、間違いなかろう。私は1ヶ月間のリハビリを通じて、この理学療法士の先生の言うことは確かであると信頼していたこともある。ということで、まずは退院後まもなく、娘と自宅そばの公営プールを訪れたのが最初の第一歩だった。

 このときは娘と行ったこともあり、まずは子ども用プールで娘と戯れる程度で、がっつり泳いだり歩いたりしたわけではなかった。しかし帰り際、大人用プールに水中歩行用のレーンがあるのを目にした私は、娘に「ちょっとだけ歩いてくるね」と言ってプールへと足を運び入れた。そこにはバリアフリー設備として、プールにゆるやかに入っていける手すりつきのスロープも併設されていた。

 私はそれまで、プールでの水中歩行もしたこともなければ、スロープを使ったことすらなかった。プールといえば、あの壁に付けられたはしごを使って垂直昇降して入るのが当たり前だと思っていた。

 しかし、このときのスロープには心底感動したことを、いまでも昨日のことのように覚えている。「あなたのような人を、待っていましたよ」といわんばかりにプールの脇に存在するスロープ。それを一歩一歩踏みしめながら、私は全く危なげなく、プールの水中歩行専用レーンへと少しずつ足を踏み入れた。

 そして水中での歩行を始める。歩ける、歩けるぞ。杖がなくても、全く問題もなければ不安を感じることもない。なぜなら水が適度な浮力をもたらしてくれるのと同時に、自分の身体を常に包みこんで守ってくれるため、転倒する心配が一切ないからだ。地上に比べ、私は水の中であまりにも自由に足を動かすことができるのだ。このときの解放感と安心感は、まさに革命的というほどに衝撃的で感動的な体験だった。

 さらにそのとき私が感銘を受けたのは、水中歩行という行為の「平等性」の高さである。そのとき水中歩行レーンには先に高齢の男性が一人いたのだが、私はその方と完全に対等でフラットな「歩行者」の一人としてレーンを歩いていた。ごくごく当たり前のことではあるが、水中歩行はただ水中で歩くだけの運動なので(多少の歩行速度の遅い早いの違いはあれど)そこに「競技的要素」は一切ない。水中抵抗も働くので、そもそもそんなにプール内で速く歩くこともできない。走るなどもってのほかだ。つまりプールの中では、誰かに急かされることもなければ、道を譲る・抜かされるといった配慮も不要なまま、誰もがゆっくりと気ままに歩行できるのだ。それは公道や公園でのウォーキングであっても環境・条件は同じなのだが、プールの場合、自動車や自転車といったリスクの存在も一切排除されている。つまり誰にとっても平等で安全なアーキテクチャ、それがプールの水中歩行レーンなのである。

 その日私は、25mを2往復、ちょうど100m程度を歩いただけでプールをあとにした。たったそれだけでも、十分にプールでのリハビリが運動として効果的であり、大いなる価値(喜び・愉悦・安全性・平等性)があるということを、その身体でしかと理解することができた。そして次の日から私は、自分ひとりでプールへ通い、水中歩行にハマる道を邁進することになる。

プール・ウォーキングのメリット6選

 プールでの水中歩行というと、「あのおじいちゃん・おばあちゃんがプールの端っこのほうでやってるやつね」という印象を持っている方も多いのではないだろうか。かくいう私がまさにそうだった。これはたしかに実際そういう側面もあるのだが、いざやってみると、それは偏見にすぎないことが分かる。実際プールに通い出すと、わりと幅広い年代の人が水中歩行を行っている。

 それだけではない。続けていくうちにわかったことだが、プール・ウォーキングは、実に数多くのスポーツとしてのメリット(特に、毎日のように継続するためのデイリースポーツとして優れた側面)を持っているのだ。ここでは、そのメリットを箇条書きの形で挙げていこう。

・1. 浮力と水中抵抗という魔法(バフ効果):水中では浮力と抵抗が同時に働くため、身体(特に関節)に負荷をかけることなく、適度な運動強度をもたらしてくれる。その結果として無理なく長時間でも歩行を継続でき、多くのカロリーを消費できる(目安:2時間で600kcal)。

 すでに述べたように、水中歩行はリハビリテーションに採用されているくらいなので、地上でのウォーキング・ジョギング・ランニングなどに比べて、膝や股関節にかかる負担は圧倒的に少ない。これは何もリハビリ中の人間にとってだけのメリットではなく、たとえば体重が多く、いきなりロードでのランニングなどをすると膝を痛めてしまうリスクが高い人などにも強くおすすめできる点である。

 そういうと、次のような疑問や懸念を持つ方もいるかもしれない:「水中では浮力が働くということは、身体に負荷がかからないのでカロリー消費効率が悪いのではないか?」。ここが水中という運動環境の非常にマジカルで優れた点なのだが、水中では浮力が働くと同時に、空気よりもはるかに大きな抵抗が働く。実際、水中では空気に対し800倍の抵抗がかかるという。そのため要は動きづらくなるため、骨や関節への衝撃・負担は和らげつつ、確実に身体には運動負荷がかかるのだ。

 この手の運動強度に関する議論をする際の指標として有用・有名なのが、いわゆるMETs(メッツ)値である。これは何もしていない安静時を1とし、各種の運動がおよそ何倍のエネルギーを消費するかという運動強度を表すものだが、実際に比較してみると、地上での散歩のMETs値は3.5、ジョギングは7.0なのに対し、水中歩行は「ゆっくり」だと2.5、「ほどほど」だと4.5とされている(参考:国立健康・栄養研究所が翻訳・公開している『改定版「身体活動のメッツ(METs)表」』https://www.nibiohn.go.jp/eiken/programs/2011mets.pdf)。あくまでこの値は参考程度とはいえ、要するに水中で浮力が働くからといって、運動強度(つまりカロリー消費効率)が格段に落ちることはないのである。

 ちなみにMETs値だけだとあまりピンと来ないと思うので、消費カロリーも試算しておこう。これは体重によっても変動するが、METs値をもとに計算できる(WEB上には計算ツールが無料で公開されているので、気になる人は使ってみると良い:https://keisan.casio.jp/exec/system/1575515755)。85kgの私の場合、2時間の水中歩行の場合「ゆっくり」で約450kcal、「ほどほど」で約800kcalを消費できる試算となる(METs値はその運動強度しだいでだいぶ変動するので、その中間の600kcalを消費できると見ておけばいいだろう。ちなみにApple Watchのワークアウトアプリで測定すると、だいたい600kcalと計測されている)。

 600kcalといえば、成人のほぼ1食弱である。1回の運動でこれだけカロリーを消費できるのであれば、体脂肪を燃焼できる有酸素運動としては十分優秀なパフォーマンスといえるし、これを無理なく毎日継続できるのであれば、ダイエット効果も確実に出る。

・2. 汗の不快感とは一切無縁:その上でプール・ウォーキングが優れているのは、どれだけ長時間運動したとしても、汗がもたらす不快感とは無縁だという点だ。水中運動ゆえに身体は常にほどよく冷やされ、(屋内温水プールであればの話だが)真夏だろうと汗だくになることはない。実際には汗をかいているのかもしれないが、水中にいるのですぐに流れ去ってしまい、肌や服が汗で濡れてベトつくといったあの不快感が一切ないのである、

 これは特に汗っかき体質の私にとって、革命的なメリットである。私は別に真夏でなかったとしても、地上での歩行やジョギング、登山などのスポーツを2時間もしたら、とんでもない量の汗をかいてしまう(Tシャツは汗でびしょ濡れになり、雑巾のように絞れる)。となると、もちろん運動後にはすぐにシャワーを浴びるなり風呂に入ったりしないといけないし、もちろん運動後の着替えと、汗でびしょ濡れになった運動着の洗濯も必要だ(なので同じ運動着を連続で2回以上使うことはできず、運動着も複数セット用意し、洗濯・干しものをしないと毎日のジョギングは続けられない。私も一時期ジョギングはしていたのでわかるのだが、いざジョギングを始めるとこれが案外面倒なのである)。

 プールであれば、こうした面倒は一切かからない。これは衛生感覚の問題なので個人差もあるだろうが、私の場合はスイミングパンツやキャップをわざわざ毎日洗濯することはない。塩素などで消毒されている水に浸かっているからだろう。プールにいったあと適当に乾燥させるだけで、全く嫌な匂いが発生することなく、毎日問題なく着用することが可能である。

 実際、私は今年の夏、朝9:00〜10:30の始業前に屋外プールに毎日通う習慣を続けていたが、むしろ身体も頭脳もプールでさっぱりするので、非常に調子が良かったほどだ。もし真夏に1時間半も地上を歩行したら、身体もクタクタになるし汗だくになってしまうだろう(最悪、熱中症になるリスクもある)。

・3. 疲れにくい・疲労感も残らない:こうした水中運動のメリットの結果、プール・ウォーキングは疲れも少なく、汗を洗い流す必要もない(プールを出たあと、髪や身体についた塩素を洗い流すために毎回シャワーを浴びはするが)。関節・筋肉・心肺などにかかる運動負荷も比較的軽いため、地上での運動に比べて疲労感もたまりづらく、運動後のほどよい爽やかさだけが残るのだ。

 ちなみにプール・ウォーキング中にApple Watchで心拍数を測ってみると、その心拍数は地上のときとほぼ同じか、それよりやや低い程度(安静時よりも+20程度)なので、運動強度としてはそこまで高いものではない。また水泳と違って「息継ぎ」をする必要はなく、常に呼吸できる状態にあるので、いわゆる「息切れ」が起きることもない(なので呼吸を整える休憩も必要がない)。

 これらの特徴から、カロリーを効率的に消費する上で重要な長時間の有酸素運動が、無理なく実現可能なのがプール・ウォーキングなのである。

 たとえば私の場合、退院直後から、あまりにも歩けること自体が楽しく、2時間ぶっ続け・休憩なしでプールで歩いていた。しかしそれでも、まったく痛みや疲れを感じることなく、すぐに仕事などに戻ることもできていた(どうりでリハビリに最適だとされているわけだと実感したが、ただしこれには個人差もあると思うので、ぜひ個々人にとって無理のないレベルの運動強度を試してみてほしい)。むしろスロープからプールに上がるとき、地上ではまだ足が自由に動かせず、身体の重さをどっしりと感じるのが歯がゆく、「もうずっと水中で生活したい!」と思うほどに水中での運動は快適そのものなのである。

 しかしこういうと「毎日2時間もプールでただ歩くだけなんて、飽きずに続くものか?」と疑問に思われる方もいるかもしれない。これは「なるべく運動を継続する」という観点で非常に重要なポイントなので、別途改めて「飽きない」ためのアイテムやメソッドについては後述する。

・4. デジタル・デトックス効果が高い:またプールの重要なメリットとして、完全なる「デジタル・デトックス」を実現できる点が挙げられる。というのも、公営プールでは基本的にスマートフォン・携帯電話を持ち込むことは禁止されているからだ(ただし後述するが、最近はスマートウォッチや骨伝導イヤホンであれば利用OKの公営プールも増えてきているので、デジタル・ガジェット好きは安心してよい)。

 これは人にもよるだろうが、ジムでのトレーニングやロードでのジョギング/サイクリングを行う際、スマートフォンは携帯している人のほうが多いだろう(いざというときのためにも、携帯したいと思うはずだ)。しかし携帯してしまうと、どうしても休憩や信号待ちなどのちょっとした合間に、メールやSlack、またSNSなどの通知を確認してしまうはずだ。別にそれが悪というわけではないが、完全なるデジタル・デトックスはできないのである。

 これに対しプールであれば、デバイスそのものが完全に手元から隔離され、ひたすら歩行なり水泳なりの運動に集中することができる。この状況は、非常に脳への影響も良いウェルビーイングなものである(ただし、仕事で忙しいときは通知が来ていないか不安でプールに集中できないと思うので、そのときの状況に応じてアクティビティを使い分けるのがよいだろう)。

・5. 水温・水圧・水流によるリフレッシュ/リラクゼーション効果が高い:これは直感的に分かる方も多いと思うのだが、そもそも水中に入るという行為自体が、ある種のリフレッシュ効果をもたらしてくれる。子どもの頃、プールというのはとにかく楽しい娯楽体験だったという人は少なくないだろう。さすがにそこまでテンションが上がることはないにせよ、確実に快適性と快楽性をもたらしてくれるのがプールの特徴である。

 そもそもこれはプールという環境の「温度」が大いに関係している。私が通っている公営プール(屋内温水プール)の場合、気温・水温はどこもほぼ30度に保たれており、基礎体温よりも低い温度が維持されている。気温30度と聞くと暑そうな印象を抱くかもしれないが、基本は水中内にいるので蒸し暑さを感じたりすることはない。そして水温30度というのは、入った最初はややひんやりと冷たさを感じるが(むしろ覚醒感覚がもたらされて気持ちがよい)、動き始めるとすぐに気にならなくなる程度の水温であり、これが長時間の運動にとってちょうどよい環境となる。

 ちなみにこの水温効果により、体温は常にクールダウンされる状態となる。その結果、恒温機能が働いて身体は体温を高めようとし、その分だけ体内のエネルギーを使うため、カロリー消費効率が常に上昇するバフ効果がかかるのも良い。ただしそのかわりに、プールのあとは体温・血糖値も下がっており、そのせいで甘いものを食べたくなったり(プールによくアイスクリームの自販機が置いてあるのは、本能的に甘いものを食べたくなるかららしい)、大量に食事をしたくなったりするデバフ効果もあるので、ダイエットを目的にしている場合はプール後の食事には要注意である。

 また水中での運動は、(人間最大の臓器である)皮膚全体を包みこんで冷やしてくれるため、リラクゼーション効果も高い。水温だけではなく、水流・水圧によるマッサージ効果もあるという。一説によると、水中では身体全体に水圧がかかり、常に水流に逆らって動くことになるため、ある種の低刺激マッサージを常に受けているような状態にあり、血行などにもよいらしい(これを「フラッター現象」というらしく、水泳やプールの魅力を語る言説ではしばしば言及されるのだが、科学的なエビデンスがあるのかは少し調べたがわからなかった)。実際、私は登山に行った帰りにプール・ウォーキングをしたことがあるが、そのときはいつもより筋肉痛が和らいだような気がした。あくまでお気持ち程度ではあるが、いずれにせよ水中に入ることで何らかのリフレッシュ/リラクゼーションの効果が得られるのは確かである。

・6. 太った身体を見られる時間は意外と少なく、恥ずかしさは少ない:これも地味だが重要なポイント。特にデブで痩せたいと思っている人は、自分の体型にコンプレックスや羞恥心(本来の自分はこんなはずじゃないという感覚)を抱いているものだ。私も最初は、「こんな太った身体で、水着を着て醜態を晒してまでプールに行くなんて」という抵抗感も若干はあった。

 しかし、今回の主目的はダイエットではなくリハビリテーションなので、そんなことは気にせず行ってみたら、全くの杞憂であった。というのもプールの場合はほぼ水中にいる時間が大半を占めるので、運動中は自分・他人の体型はほとんど視界に入らないのである。なんなら公営プールの場合、ムキムキっとしたスポーツ体型の方は少数派で、わりと肥満体型な方のほうが多いくらいだ(もしかすると私と同じで、太っているからこそプールでの運動にメリットを感じているのではないかと推察する)。なので肥満体型であることを気にする必要もないし、水中では浮力も働くので、自分が太っているという事実をバーチャルに忘れることもできる。よってこうした観点でも、実はデブにこそプールはおすすめである。

他のスポーツや類似施設との比較

 以上、いろいろとプールの魅力・メリットについて書いてきたが、ここでは改めて他のスポーツやアクティビティと比較した上での整理を行ってみたい。以下で具体的な比較対象として挙げるのは、ロード(公道)でのウォーキング・ジョギング・サイクリング、フィットネスジムでのトレーニング(筋トレ・ロードランナー・エアロバイクなど)、そしてスポーツではないが類似したアクティビティということで、サウナも比較対象に入れてみた(当然だが、私はこのすべてを体験した上で、あくまで主観的ではあるが比較・評価を行っている)。

・運動強度・カロリー消費効率など、身体づくりやダイエット効果としての観点:
 これは地上の重力が働く、ロードやフィットネスジムのほうに分配が上がる(繰り返しになるが、プールでは浮力が働くため、水中抵抗はかかるとはいえ運動強度はそこまで高くない。だからこそリハビリテーションにも向いているわけなので、ここは一長一短である)。

 特に運動強度や基礎代謝を高めるという観点で、筋肉をつけてムキムキマッチョな身体に改造したいという場合は、(タイパも含めて考えると)専用設備のあるジム一択になるだろう。パーソナル・トレーナーもつけるほうがもちろん効果も高いだろう。ただし、当然ながらその分費用もかかるし、筋トレ・体重制限の知識や厳密さも求められるので、気軽に取り組むというわけにはいかないだろう。

・汗の不快感問題:
 これはすでに書いたとおり、プールという環境が圧倒的に他のスポーツに比べて優れている点である。要は冷たい風呂に入りながら運動をしているようなものなので、汗問題は完全にクリアできる。ただしサウナは汗を大量にかくこと自体が目的であり、水風呂や椅子に座ってのクールダウン含めてのアクティビティなので、この不快問題とは無縁だ。

 余談だが、近年のサウナブームですっかり注目を集めるようになった「ととのう」についてここで付記しておく。ちなみに私は、サウナでこの「ととのう」の境地に達したことはない(サウナや温泉は好きだが、単純に熱い状態に長時間いるのが苦手なのと、水風呂も苦手でほとんど入らないからか、少なくとも脳内で快楽物質が明らかに出ているような「ととのう」体験をサウナでしたことはない)。

 ただし、それに近い感覚は別のアクティビティで感じたことがあり、それが登山の山頂付近での最後の登頂(ラストスパート)と、到着直後のクールダウン時に感じる気持ちよさだ。急登で体温も心拍数も激しく上がったあとに、山頂に吹く爽やかな涼風にあたっているときの、あのなんともいえない(他に代えがたい)快楽と愉悦は、もしかしたら「ととのう」に近いのかもしれない(そしてわざわざ登山せずとも、街中で労せずあの感覚が味わえるのであれば、サウナはコスパのよいアクティビティといえそうだ)。

 ということで、「ととのう」的な快楽性・愉悦性を得られるかという観点でいえば、街中で日常的にアクセス可能な環境としては「サウナ」が最強ではあるだろう。ただしこれはプールであっても、「クロールで激しく泳いだあと、水中歩行レーンのウォーキングでクールダウンする」といった形で、心拍数の上下だけだが似たような身体状態をつくることは可能だ(それはジョギングやサイクリングでも同じなので、特にプールだけの特徴ではないが)。ただし、プールであれば消毒された水に浸かるので衛生度も高いし、運動後はシャワーを浴びて帰ることができるので(これはジムも同様だと思うが)、毎日の風呂代わりに利用することもできる(私は実際夜19:30〜21:30にプールへ行き、その日は自宅で風呂などに入らず就寝し、朝シャワーを浴びるのを日課にしている)。私はいわゆる「風呂嫌い勢(風呂スキップ界隈)」に昔からシンパシーを感じるタイプだが、プールのおかげでシャワーはほぼ自動的に毎日浴びることにもなるので、その観点でもプールにはメリットを感じている。

・疲労感の強さ・溜まりやすさ問題:
 これもすでに書いたが、プールは浮力が働くので関節への負荷も少なく、汗もほぼかかない。そして水中運動ゆえにリフレッシュ・リラクゼーション・クールダウン効果も高いなどのメリットがあり、疲労感は少ない(がっつりプロ選手なりに水泳をすればかなり疲労すると思うが、水中歩行ではそこまで強度を上げること自体が難しい)。それゆえ長時間でも無理なく有酸素運動を続けることができるため、(一回あたり・同一時間あたりの「カロリー消費”量”」は他に劣るかもしれないが)「カロリー消費”効率”」あるいは「継続性(毎日無理なく続けられるか)」という観点で見れば、結果的にパフォーマンスは高いといえる。

・デジタル・デトックス効果:
 これも先述したとおり、そもそもプールではスマートフォンの持ち込み・使用が一切禁止なので、完全なるデジタル・デトックスを実現できる。現代の日常生活の中で、睡眠時以外でスマートフォンを完全に手にしない時間というのは、思ったよりも作るのが難しいはずだ。これは想像するよりもかなりメリットが大きい体験なので、ぜひ経験してみてほしい。

・コスパ(費用):
 健康・ダイエットのためには長く続けられることが何より大事であり、その意味でコスパという観点は決して見逃せない。この点では、もちろん無料の公道・公園を利用できるウォーキング・ジョギングなどが最強なのだが、次節で触れるように、(おそらくはほぼどの自治体にも存在しているはずの)「公営プール」を使えば、コストはだいぶ低く抑えてプールを利用することはできる。

”公営”プールのすすめ

 ということで、私はここまでずいぶん長々とプール・ウォーキングのメリットを書き連ねてきた。しかしおそらく読者のなかには、「プールがおすすめなのはわかったが、実際のところプールは手軽に利用できないではないか(家の近くにない、ジムのプールは高いなど)」という感想を抱く方も少なからずいたのではないかと思う。

 そこで私が推奨したいのが、公営プールである。なぜなら公営プールは他の私設プール(フィットネスジムに併設されているものなど)に比べて利用料金も安く(税金による運営補助費が出ているから当然だが)、公営施設にしては夜遅くまで運営されていて使いやすい、といったメリットがあるからだ

 ちなみにここでいう公営プールとは、いわゆる「市民プール」、つまりは区市町村などの地方自治体が運営している(屋内温水の)プール施設を指す。それはしばしば「スポーツセンター」などの名前で、体育館・競技場(剣道・柔道場など)・スポーツジムなどと一体化した総合スポーツ施設の中にある場合も多いだろう。あるいはゴミ処理場の横に併設されているケースもよく見られる(焼却炉の熱を利用)。さらに最近では、小中学校のプールを屋内温水プールとして設営し、学校で生徒が利用する以外の時間帯は、一般市民向けに公開するタイプの公営プールもある(江東区には豊洲にこのタイプのプールが1箇所ある)。

 ちなみにこれらは公営といっても、市や区が直接経営しているのではなく、いわゆる3セク(第3セクター)の公社が、自治体からのスポーツ振興予算の助成を受けて運営しているケースも多いと思われる。いずれにせよ、税金の補助で成り立っているという意味ではほぼ「公営」といって差し支えないだろう。

 とはいえ私も今回の病気になるまで、自分が住んでいる地区に公営プールが存在しているのかどうかすら、全く気づいていなかった(というか、気にしたこともなかった)。実はこういう人は多いのではないだろうか。たしかに公営プールは、町中で目立つような場所にない(だいたいは公園などのそばにひっそりとある)。普段から水泳をするという人でもなければ、プールのことをわざわざ調べようとはしない気がする(役所や図書館の場所は知っていても、公営プールの場所は知らない人は多そうだ)。また公営プールは基本的にスマートフォンの持ち込みや撮影も完全NGなので、必然的にSNSでの話題に上がってきづらく、インフルエンサーやYouTuberが取り上げることもほぼないだろう。そのためSNS主体の現代の情報環境では、その存在自体が認知される機会も少ないという構造的な要因もありそうだ。

 少しデータを調べてみると、日本で公営プールはその数をしだいに減らしつつあるという。「消えゆく公営プール、25年で4割減 レジャー型や屋外型のニーズ薄れ…」(中国新聞、2024年7月29日)という記事によれば、「2021年度の公営プールの総数は、水泳用の屋外型▽水泳用の屋内型▽レジャー型の3タイプで計3816施設。1996年度と比べ、2486施設(39.4%)も減った」という(https://www.chugoku-np.co.jp/articles/-/500614)。ただし大幅に減ってしまったのは主に「屋外型」である(たしかに私が子どもだった昭和後期は、夏になるとよく屋外型の市民プールに通っていたものだが、最近ではその存在を見かけなくなった気がする)。むしろ屋内型については増加傾向にあり、「公営では96年度の1625施設から21年度の1784施設へ、9.8%増えた」とのことだ。屋外/屋内プールも結局同じ面積を使うのだから、それであれば夏しか運営できない屋外プールよりも、全天候対応でオールシーズン使える屋内プールのほうが、スポーツ振興・健康促進という観点から見ても、より費用対効果は高いためだろう。

 さて、具体的な公営プールのメリットを詳説する前に、但し書きをつけておきたい。ここでの記述は、私が在住している東京都(江東区)でのこの半年の体験をもとに書いており、日本全国の事情を幅広く調べたものではない。どうやら江東区は昔からスポーツ振興に力を入れている自治体のようで、スポーツセンターの開設も早くから取り組んでおり、公営プールの施設数・設備・環境や利用料金などの面で恵まれている可能性は高い(ちなみに江東区は2023年時点で人口約53万人、江東区健康スポーツ公社が運営する公営プールは屋内型が5つという規模感である。他の区と比べると、人口に対するプール数は多めのようだ)。

 そのため以下の公営プールのメリットに関する記述は、一部の地方自治体、特に東京のような大都市圏に限られた内容になってしまっている可能性は高く、その点はあらかじめご理解いただきたい(今後もプールはライフワークになると思うので、引き続きリサーチやフィールドワークは続け、その実態は調べていくつもりだ。ちなみに私はこの数ヶ月間で、隣接する江戸川区や中央区、千葉県の浦安市や市川市の公営プールに「遠征」もしている。ただしプール自体は公共インフラとしての歴史も長く、そのデザイン・フォーマットもかなり標準化されているので、実はあまり比較するようなことはないのだが、機会があればその遠征レポも書いてみたい)。

 また以下の金額や営業時間などのデータは、すべて本稿を執筆した2024年9月時点のものである。

公営プール(特に屋内温水プール)をおすすめしたい理由3選+α

・1.コスト(利用料金):これはすでに書いたとおり、税金による運営補助が出ているため、フィットネスジムよりはだいぶ安く利用できる。ちなみに江東区の場合は、プール1回あたり2時間・大人400円(この価格は自治体によって変動幅があり、隣の江戸川区はなんと1回210円と非常に安価だったり、浦安市は逆に3時間600円だったりする)。最初に試してみる程度であれば、非常に安価といえるだろう。

 また、たいていの公営スポーツ施設には「定期券」や「会員証」という定額プランも用意されており、私の場合は3ヶ月9500円の会員サービスを利用している。もし3ヶ月ほぼ毎日行くとしたら、1日100円ほどで利用できる計算になるため、プールを愛用するならば即座にこの会員証をゲットすべきだ。

 もちろん最近はフィットネスジムも低価格化の波が来ており、特に24時間タイプのジム(エニタイムフィットネスやチョコザップなど)が街中でも多数見かけるようになった。しかし、これらの低価格ジムではプールは併設されていない場合がほぼ大半だと思われるので、プールを安価に使いたければ公営プールのほうがおすすめである。

・2.営業時間:公営施設と聞くと「どうせ夜の20:00くらいまでしかやっていないのでは」と思う人もいるかもしれないが、どうか安心してほしい。昔はいざ知らず、最近の公営プールは22:00頃まで営業している場所がほとんどだ(江東区の場合は21:45には遊泳終了、22:00までに退館。江戸川区などでは22:30までやっているところもある)。

 なので、仕事を終えて19:30〜20:00頃にプールに着けば、2時間近い時間は確保できる(夜遅いほうが利用者も少なくより開放感があり伸び伸びと歩けるので、私はこの時間帯を好んで利用しているが、これは場所にもよると思うので各自自分の足で調べてみてほしい)。朝も9:30頃からたいていオープンしているので、少なくとも1日の自分の生活サイクルにあったタイミングを選んで公営プールに行くのは、そこまで難しくないはずだ。

 また先述した定額会員証を契約すれば、「1回あたり2時間」という時間制約も一切気にしなくてよくなるため、「昼休みに40分だけプールでリフレッシュする」といった使い方もできるのでおすすめだ。

・3.施設/設備の利便性:これは自治体や場所によってもまちまちだと思うが、公営プールだからといって「設備が古い」「設備が充実していない」とは一概にいえない。私が通っているところは、最近リニューアルされたばかりということもあってバリアフリー施設は当然のこと、ジャグジーや採暖室(低温サウナのような部屋で、主に休憩中に身体を冷やさないために使用する)などもあり、ちょっとした温浴施設のような風貌も備えている。もちろん温水プールなので、銭湯・サウナのような熱いお湯は味わえないのだが、銭湯がいま都内で500円を超えてしまっていることを考えると、銭湯に行くよりもプールのほうが(直接比較するものではないが)だいぶコスパ的にはお得だと感じる。

 また自治体によっては、「流れるプール」や「ウォータースライダー」といったレジャー設備を完全屋内の公営プールで提供しているところもある(私が使ったところだと、墨田区の「すみだ健康スポーツセンター」など。価格も土日だと大人550円とそこまで高くはない)。私営のエンタメ系プール施設に比べれば格安で利用できるため、実際に人気も高い。土日は人数制限がかかって入場待ちができるほどである。

 ほかにも地味な点ではあるが、プールの前後に浴びる温水シャワーはどの公営プールにもある(昔の学校のプールのように「水しか出ない」といったことはない)。更衣室には、水着用の脱水機、体重計、ドライヤーなどが置かれているプールもある(ない場合もあり、ここはまちまち)。私は自宅で体重計に乗る習慣がなぜか作れないという病(?)を抱えているので、公営プールで体重が測定できるのは非常にありがたい。また総合健康施設という位置づけのためか、江東区のスポーツセンターには「血圧計」も置いてあり、私はよく利用している。

・付記:納税者であればぜひその受益をすべきだし、適切に住民税が使われているかを有権者として監視しよう:

 これはメリットではなく、あくまで私なりの観点だが、「納税者」であれば自分の自治体が運営している公営プールにはいくべき価値と義務があるのではないか、という提案をしたい。

 それはなぜか。まず、公営プールは税金の補助によって安価に利用できる設備なのであるから、(受益者負担とは逆の考えになるが)逆に受益者の側にせめて1回だけでも回っておいてみても良いだろう。少なくとも私は、何年も江東区に住んでいたのに、こんな素晴らしい設備を普段から利用していなかったのは実にもったいなかった! と痛感しているほどである。

 実際、公営プールは素晴らしいインフラであり、その運営費も決して安くはないはずだ。プールの水道代、適切な気温・水温を維持するための光熱費、水質浄化設備の運用費、さらには人権費にそもそも土地代など、普通に考えるとプールというこの優れた設備が、公的補助によって安価に利用できるというだけでも、非常に恵まれた状況にあると考えるべきだ。なので、その恩恵はぜひ享受すべきというのがまず一点。

 そしてもう一点は、自分が納めている税金が適切に使われているかどうか、有権者としてチェックするという意識を持つきっかけにもなるのでは、という観点も付け加えておきたい(「権力を監視する」というと実に大仰な表現になってしまうが、「下からの監視(サーベイランス)」は民主主義の基本中の基本である)。

 その観点でいうと、公園や図書館などは目につきやすく利用者も多く、実際ニュースなどでも話題に上がりやすいのだが、スポーツ・健康施設となるとその注目度は一気に下がるような気がしている(オリンピック用施設のレベルになるとさすがに無視できないレベルの規模にはなるが、これは東京都のように運営主体のレイヤーが上がってしまうため、「どうせ自分は住んでいないから」などの理由でそこまで監視意識も働かないし、実際働いていないからこそ、東京五輪や大阪万博のような「問題」が起こるのだろう)。政治参加のきっかけに、などという辛気臭い話をするつもりはないのだが、ぜひ自分の血税が微量ながらも投入されているスポーツ施設に足を運び、自分の目で直接見る機会をつくってもらえればと思う。すでにこの文章をここまで読んだ方であれば、すっかり自分の自治体の公営プール事情について調べたくなっているはずだと、私は期待している。

この記事は、2025年1月28日同名連載をリニューアルしたものです。あらためて、2025年2月13日に公開しました。

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