勇者シリーズ最終作品は「成熟」をどう描いたか

 『勇者王ガオガイガー』は、これまで論じてきた勇者シリーズの最終作に位置する作品であるが、一般にその評価は二分されているといってよい。

 ひとつめは『勇者王ガオガイガー』こそが勇者シリーズの代表作だという意見だ。実際、『勇者王ガオガイガー』は勇者シリーズの中では放送終了後のメディアミックス・商品化ともにもっとも恵まれた作品であることは間違いない。ダグオンと同様にOVAが発表された他、雑誌をはじめとしていくつかの媒体で派生作品が展開されていた。また現在においてもさまざまな商品がアップデートされながら発売され続けている。勇者シリーズというブランド(とここでは呼んでおくことにしたい)の中でも、その歴代商品化点数はおそらくトップクラスだろう。勇者シリーズ最大の人気作であると言ってしまっても、さほど問題はないように思われる。

 もうひとつの意見は、『勇者王ガオガイガー』は勇者シリーズの異端作だという意見である。『勇者王ガオガイガー』はそれまでの勇者シリーズが持っていたどこか牧歌的なトーンを持ち合わせておらず、かなりハードな設定のSFとして描かれている。また木村貴宏によるキャラクターデザインも、男性・女性問わず総じていわゆるアニメ的なニュアンスが強いものである。そのため『勇者王ガオガイガー』は、あくまで子供に向けた玩具販促番組としての枠組みに留まってきた(あるいはときに逸脱しながらも留まろうという重力の影響下にあった)それまでの勇者シリーズに比べると格段に大人向け、あるいはアニメファン向けの作品だと受け止められている。

『勇者王ガオガイガー』。これまでとは大きく趣の異なるビジュアル。 勇者シリーズデザインワークスDX(玄光社)p211

 

 このふたつは一見相反する意見のように思われ、ファンのあいだでもしばしばその評価について対立が起こっている。しかし本連載では、このふたつの立場は両立するもの、ひとつの現象の異なる側面として考える。つまり『勇者王ガオガイガー』は、異端作であるがゆえに代表作となったのだ。

「少年」と「サイボーグ」

 順を追って考えてゆこう。勇者シリーズとは、少年とロボットの関係をドラマの主軸に据え、その関係性を通じて理想の成熟のイメージを描いてきた作品であった。そのため少年とロボットの関係から確認したいが、本作のそれは少々入り組んでいる。

 まずは基礎設定をおおまかに確認したい。本作の敵は「ゾンダー」と呼ばれる異星の機械生命体である。その目的は地球の生命体と強制的に融合し、惑星そのものを機械化することにある(「機界昇華」と呼ばれる)。これは「ゾンダーメタル」と呼ばれる物質が人間に寄生し、その人間が周囲の機界を取り込んで暴れまわり、最終的にはそれが完全体となることで胞子が散布され達成される。これに対抗する地球の防衛組織が「GGG(スリージー)」であり、GGGに所属しゾンダーを阻止する力を持ったロボットが「ガオガイガー」となっている。本来はかなり複雑な設定が物語の進展と共に明かされていくのだが、ここではいったん次のようなジレンマが与えられている点を把握しておきたい。まずゾンダーはダメージを与えても周囲の機械と融合して回復してしまうため、そのコアを取り出さなければ倒せないこと。しかし人間を寄生体としているので、コアを破壊すると寄生された人間も犠牲になってしまうことである。

 なぜこれが前提として必要かといえば、本作の「少年」と「ロボット」は、この状況を協力して解決するものとして置かれているからだ。

 「少年」に相当するキャラクターである天海護は、一見普通の小学3年生である。しかし偶然ガオガイガーとの戦闘に遭遇した際、先述のコアに寄生された人間を元の姿に戻す力を発動させる(「浄界」と呼ばれる)。その唯一無二の能力を活かすため、護少年はGGGの隊員として招聘される。護がなぜそのような能力を持つのかが、物語を通じた大きな謎のひとつとなっていく。

天海護。勇者シリーズにおける「少年」の記号を詰め込んだデザイン。 勇者シリーズデザインワークスDX(玄光社)p239

 

 一方「ロボット」に相当するのが獅子王凱である。凱はもともと史上最年少の宇宙飛行士であったが、初フライトで未知の物体(地球に飛来した最初のゾンダーであることが後に明かされる)に接触、重症を負うもサイボーグとして蘇った。サイボーグとしての人間を超越した身体能力を活かし、GGG機動部隊隊長としてゾンダーと戦っていくことになる。

 凱はまずライオン型ロボット「ギャレオン」と「フュージョン」することによって、人型に変形したロボット「ガイガー」と融合する。これが本作の小ロボとなる。ギャレオンは護と共に地球にやってきた異星のロボットであり、このことがゾンダーに対抗しうる理由となっている。そのガイガーが地球製の支援メカ3種と「ファイナルフュージョン」することによって完成されるのが「ガオガイガー」だ。ガオガイガーはゾンダーの持つバリアを貫通し、コアを摘出する能力を持つ。そしてこのコアを護が浄界するというかたちで、ふたりは連携していく。

 設定上、凱は生身を残したサイボーグであり、演出上も人間のキャラクターとして描かれている。そのため「ロボット」とは言えないだろう――という問いは正しい。

 結論から言えば、凱は「少年」と「ロボット」両方の要素を兼ね備えている。本作には「氷竜」「炎竜」をはじめとした、従来の勇者ロボを踏襲する超AI搭載のロボットたちも多数登場し、凱は彼らを率いる隊長という立場にある。凱の年齢は20歳であり少年と呼ぶには少々高いが、その男性的なナルシシズムはたとえば旋風寺舞人にも見られたものであるし、自我(より正確には人格)を持たないロボットとの融合合体という要素はダグオンの面々を思い起こさせる。なにより凱は明らかに物語の主人公として描かれている。そう考えれば「年齢の高い少年」と考えることもできるだろう。

 しかし一方で、勇者シリーズにおいて凱ともっとも近い立ち位置のキャラクターは明らかに火鳥勇太郎である。火鳥はアンドロイド、凱はサイボーグと微妙に(しかし決定的に)異なるものの、ケンタ少年は火鳥を「火鳥兄ちゃん」と呼んで慕い、護少年もまた同様に凱のことを「凱兄ちゃん」と呼ぶようになる。また作中において、護が凱のことを「おじさん」と呼び、凱が「これでもまだ20歳なんだぜ」と答えるくだりは、クリシェとして何度か繰り返される。護という少年から見た凱が「おじさん」という「大人」であることは、単なるジョーク以上の意味を持つだろう。それは若干20歳にして凱が歩んできた苦難の運命を示してもいるだろうが、やはり護から見た凱は理想の成熟のイメージとして描かれている。その意味では、やはり凱は「ロボット」としての側面も同時に持ち合わせているのだ。すなわち凱が「サイボーグ」であることは、「少年」と「ロボット」のハイブリッドであることをよく説明している。

獅子王凱。歌舞伎の仔獅子をモチーフにしていると思われるヒロイックな出で立ち。サイボーグではあるが、肉体のほとんどは機械である。
勇者シリーズデザインワークスDX(玄光社)p237

再び姿を現した「サイボーグ」

 ここで凱が「サイボーグ」であることは決定的に重要だ。

 まず本連載では『勇者指令ダグオン』における炎たちは、「少年」と「ロボット」の距離がゼロになり一致した結果、「少年=ロボット」の相互関係を展開したと捉えた。ダグオンが変身ヒーローを参照することで結果として「少年」と「ロボット」をまったく継ぎ目なく融合してしまったのに対して、凱は「サイボーグ」というモチーフによってその両義性が明示されている。言い換えれば「サイボーグ」という概念は、エクスカイザーにはじまりダグオンに到達した勇者シリーズそのものを自己言及的に表現しているのだ。

 そして当然、本連載の議論に照らせば「サイボーグ」という概念はさらなる過去への射程を持つ。勇者シリーズの源流にはトランスフォーマーがあり、そしてトランスフォーマーはダイアクロンとミクロマンをアメリカン・マスキュリニティのもとに再編することで得られ、そのダイアクロンとミクロマンは変身サイボーグから発展しているのだった。

 では変身サイボーグはどこから生まれたのかといえば、それはアメリカの兵士のフィギュアであるG.I.ジョーの、日本向けローカライズによるものである。本連載ではアメリカン・マスキュリニティの日本的変奏と受容の流れとして、変身サイボーグから勇者シリーズへの流れを捉えてきたのだった。凱が「サイボーグ」というモチーフを持ち合わせていることによって、その源流までも射程に収めている。

 実際、ダグオンに引き続き、獅子王凱はアクションフィギュアが商品化されている。その商品名は『DX変身サイボーグ 獅子王凱』。ここに変身サイボーグという言葉が使われているのは偶然ではない。内部にメカがのぞくクリアカラーの素体にアーマーを装着するという形式自体が変身サイボーグのものであるだけでなく、この素体はリデコレーションされ『変身サイボーグ99』という商品名で、変身サイボーグのリブートとして商品化される。そもそも変身サイボーグという商品名は、さまざまな外装を身につけることで「変身」できるというコンセプトからの命名であり、その背景には仮面ライダーをはじめとした変身ヒーローの大流行があった。前作ダグオンがまさに変身ヒーローのモチーフを取っていたこと、そして主人公たちの変身後の姿をかたどったアクションフィギュアが商品展開に含まれていたことを思い出したい。勇者シリーズという想像力の壁に穴を開け、その外部である変身ヒーローに到達したダグオンの想像力を、ガオガイガーは改めて「サイボーグ」と名指すことで包括しているのである。

この記事は2025年3月19日に配信した同名連載をリニューアルしたものです。あらためて、2025年4月9日に公開しました。バナー画像出典:勇者シリーズトイクロニクル(ホビージャパン)p52
これから更新する記事のお知らせをLINEで受け取りたい方はこちら。