3つめの区分「末期勇者」

ここまで勇者シリーズの6作品を、大きく前半「谷田部勇者」と後半「高松勇者」にわけて論じてきた。「谷田部勇者」は理想の成熟のイメージを追求した結果、子どもとおもちゃの関係を「命じる少年」と「従うロボット」として描き出した。「高松勇者」は勇者シリーズの本質を批判的に継承していく過程で、その関係の境界に挑戦していった。そして最終的に『黄金勇者ゴルドラン』はメタフィクションとして、「子どもの遊び」を永遠に続けていくという逆説的な成熟のモデルに到達した。

ここからは『勇者指令ダグオン』と『勇者王ガオガイガー』の2作品を続けて論じていく。「谷田部勇者」「高松勇者」という呼称と同様に、この2作品を便宜上「末期勇者」と呼ぶことにしよう。「谷田部勇者」と「高松勇者」の区分が監督の切り替わりによって定義されていたのに対して、この2作品は監督も脚本家も共通していない。にもかかわらずこれらをひとつにまとめて論じるのは、共通するスタンスを共有しているためである。そのことを、それぞれを分析していく過程で明らかにしていきたい。

「変身ヒーロー」の繰り広げる「青春」

『勇者指令ダグオン』は、次のような物語になっている。宇宙監獄サルガッソに収監されていた多数の凶悪な囚人が反乱を起こし、サルガッソを掌握。ここから囚人たちによる惑星狩りがはじまり、地球もその侵略の標的となる。これを危惧した宇宙警察機構のブレイブ星人は、大堂寺炎、広瀬海、沢邑森、風祭翼、刃柴竜という5人の高校生(後に黒岩激、宇都美雷が加わる)を「勇者ダグオン」に任命する。彼らはダグオンとして、侵略宇宙人から地球を守る戦いに身を投じていくことになる。

『勇者指令ダグオン』。高校生の主人公たちが並ぶ。 勇者シリーズデザインワークスDX(玄光社)p171

『勇者指令ダグオン』は、これまでの勇者シリーズと大きく異なる点がふたつある。ひとつは、明確に「変身ヒーロー」のモチーフが導入されていること。もうひとつは、主人公たちが高校生であり「青春」をテーマにしていることだ。

順番に説明しよう。大堂寺炎をはじめとした高校生たちは「ダグコマンダー」と呼ばれる変身アイテムを腕に装着しており、「トライダグオン!」の掛け声と共に、「ダグテクター」と呼ばれる強化スーツをまとう。まずこの状態で悪の宇宙人たちと戦うのだが、窮地に陥ると乗り物が変形したロボットと「融合合体」し、巨大化する。このとき自我は常に炎たちのものが保存される。つまり『勇者指令ダグオン』におけるロボットは基本的に炎たちの肉体であり、個別の自我を持たない。

これは勇者シリーズとして見れば斬新な設定だが、同時代(20世紀後半)の子ども向け作品に目を広げれば、むしろクラシックな「変身ヒーロー」に大きく近づいている。実際、各話ごとに表示される宇宙人の名称とそのシルエットは明確に円谷の「ウルトラシリーズ」のパロディである。各話完結で地球を侵略する宇宙人が搭乗する構成に加えて、ロボットと融合合体することを巨大化とみなすなら、ヒーローの性質もウルトラマンと共通点がある。5色に色分けされたヒーローがチームで戦いロボットに搭乗するのは東映の「スーパー戦隊シリーズ」に近い。「仮面ライダー」シリーズからの引用は比較的薄いように思われるが、侵略してくるのも主人公たちに力を与えるのも同じ「宇宙人」であると考えれば、ヒーローとヴィランが同じ性質の力を持つ同シリーズの要件を備えているように見えなくもない。実際販促のために、こうした特撮作品を彷彿とさせる、人間が着用するダグテクターのスーツも作られている。

大堂寺炎が変身する「ファイヤーエン」。明確に変身ヒーローから引用されたデザイン。 勇者シリーズデザインワークスDX(玄光社)p173

なりきり玩具、アクションフィギュア、そして変形ロボット

ここで商品構成を劇中の展開に沿って、中心キャラクターである炎を例に説明していこう。まず炎は変身アイテム「ダグコマンダー」(いわゆる「ブレス」枠)を使って、ダグテクターを装着した「ファイヤーエン」に変身する(アクションフィギュアとして商品化)。そしてファイヤーエンは小ロボット「ダグファイヤー」に融合合体し、さらに3機のビークルと合体して「ファイヤーダグオン」となる(メインアイテム)。しかしこのビークルは劇中で破壊してしまい、ファイヤーエンはしばらく代替のパワーショベル型ビークルと融合合体した「パワーダグオン」として戦うことになる(2号ロボ)。そして復活したファイヤーダグオンとパワーダグオンは合体し、「スーパーファイヤーダグオン」となる(グレート合体)。さらに剣に変形して武装となる「宇宙剣士ライアン」および無限砲と呼ばれる銃に変形する「ガンキッド」がスーパーファイヤーダグオンに合体し最終形態となるが、このふたつは子どもが持つこともできる大きさになっている(なりきり玩具)。

「DX火炎合体ファイヤーダグオン」「DX剛力合体パワーダグオン」「超火炎合体スーパーファイヤーダグオン」。パワーダグオンの「破壊された合体ビークルの代替」というポジションは勇者シリーズとしては伝統的なものである。 勇者シリーズトイクロニクル(ホビージャパン)p44,47,51

こうして整理すると、変身ヒーロー要素を導入したことによって、各アイテムがうまく相互に結びついているといえるだろう。ただしグレート合体をめぐる弁証法がほぼ機能を停止していることはここで述べておきたい。「1号の退場により新たな主役となる2号」「2号がパワーを象徴する」「後に1号が帰還する」という構図を『仮面ライダー」と重ねるならば、遡ってファイヤーダグオンを「技の1号」としたうえでパワーダグオンを「力の2号」と考えることもできなくはないが、そのことに単なる引用を超えた象徴的な意味を見出すことは難しい。ライアンおよびガンキッドとの三位一体も、剣と銃は対立的な構造を取らない。ただしファイヤーダグオンとパワーダグオンの合体についてはまったく別の意味合いが持たされているため、この点については後述する。

成熟しロボットになる少年たち

では物語はどうだろうか? 先述のように、『勇者指令ダグオン』においては「自我を持ったロボット」がほぼ登場しない。ほぼ、と留保をつけたのは例外があるからで、ライアンとガンキッドはこれまでの勇者シリーズを彷彿とさせる自我を持ったロボットである。しかし印象的なエピソードこそ用意され、商品構成的には主人公をパワーアップさせる重要なポジションであるものの、物語的には準レギュラー程度の役割しか持たされていない。ここでは「少年」と「ロボット」の関係を描くというイメージはほぼ放棄されており、前提が大きく更新されている。

このことをもって『勇者指令ダグオン』は異端の作品であると言われることがある。確かに本作は勇者シリーズが成立してきた前提を外しているように思われる。しかし本連載では、それは前提を変更したのではなく、その前提にある想像力をさらに先に進めた結果、勇者シリーズという想像力の壁に到達し、穴を開けて外側に至った作品だと考えたい。

どういうことか。ここでもうひとつの大きな特徴、ダグオンの主人公たちが高校生(16歳〜17歳)であることに注目したい。これは勇者シリーズとしては『勇者特急マイトガイン』の旋風寺舞人15歳を大きく更新する、かつてない高い年齢だ。勇者シリーズは、少年がロボットとの関係の中で理想の成熟のイメージを獲得していく物語として発展してきた。しかしダグオンの主人公たちは最初からある程度「成熟」している。ゆえに彼らはダグテクターを纏って変身し、ロボットの身体と融合していくことによって自ら戦いに身を投じていく。彼らはすでに自我を持ったロボット――「魂を持った乗り物」に導かれることを必要としない主体なのだ。

では、彼らは成長の物語を必要としない、完璧な存在なのだろうか? そうではない、とここでは考える。そこで重要になるキーワードが「青春」だ。

ダグオンでは第一話から「青春」という単語がしばしば発される。ここでいう「青春」とは、一言で言えば「他のキャラクターとの関係性」のことだと言ってよい。

ダグオンの物語は、かつてないほど人間関係――恋愛と友情を主題にしている。たとえば炎と激は友情を育みつつも、ヒロイン戸部真理亜を巡った三角関係に陥る。海は宇宙警察機構のエージェント、ルナを救ったことから相思相愛の関係になる。森は自分の青春は「女の子」と共にあると述べナンパを繰り返すが、最終的には同じ学校に通う芹沢英里加と恋仲になる。翼は森の計らいで中学時代の同級生である藤井ユカリと関係を深め、ユカリがオーストラリアに引っ越すことで別れを経験するが、決戦前に会いに行っている。竜は妹である刃柴美奈子を救うために味方と対立する。そして自我を持ったロボットであるライアンとガンキッドも、ライアンが擬似的な「父」としてガンキッドを導くという形で、境界なくこの中に組み込まれている。

こうした特徴を、本連載では勇者シリーズの伝統から切断されたのではなく、むしろ拡張した結果であると考える。ダグオンでは少年たちはすでにある程度成熟しており、そのまま変身しロボットに融合することで戦うことができる。つまりここで少年とロボットは完全にイコールで結ばれている。そして勇者シリーズにおいては、少年がロボットと絆を育むことによって成熟してきた。単純な三段論法の結果として、ロボットと融合できる少年は、同じく少年と絆を育むことによって成熟していく。

これは考えてみれば当然の帰結である。この連載では『勇者特急マイトガイン』と『勇者警察ジェイデッカー』を、勇者シリーズの想像力の境界に挑戦した作品だと考えてきた。『勇者特急マイトガイン』は、ガインをはじめとした周囲の有能なスタッフに支えられた万能感を特徴とし、『勇者警察ジェイデッカー』は人間と変わらぬ心を持った超AIを主題にしていた。『勇者指令ダグオン』はこの両方を引き継ぎ拡張している。すなわちダグオンは、想像力の上では「旋風寺舞人がガインを必要としなくなったマイトガイン」であり、「ブレイブポリスが人間の肉体を得たジェイデッカー」なのだ。『勇者特急マイトガイン』と『勇者警察ジェイデッカー』が行き当たった境界のさらに向こう側に到達した結果、変身ヒーローへと接続した――そのように考えたい。

そして『勇者指令ダグオン』は、その先にあるイメージにまで手をかける。

(続く)

この記事は2025年2月12日に配信した同名連載をリニューアルしたものです。あらためて、2025年2月20日に公開しました。バナー画像出典:勇者シリーズトイクロニクル(ホビージャパン)p44
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