2024年の春、私は人工股関節を入れる手術を受けるため、約1ヶ月間の入院生活を送った。これほど長期にわたる入院生活は、人生でも初の経験であった。また退院後は毎日のようにリハビリテーションのためにプールへ通い、水中歩行・水泳を続けてきた。その経過は極めて良好で、術後約半年が経過した2024年10月現在、普通に杖なしで歩くことができるようになっただけでなく、軽めの登山に行けるほどに回復した。

 以下本稿では、この半年の入院・リハビリ生活のなかで私が経験してきたことのなかでも、とくに(幅広い読者にとっても)有益と思われるノウハウやメソッドをまとめてお届けしたいと思う。具体的には、次のようなテーマやキーワードに興味・関心を持つ読者にとって役立つところが多いはずだと考えている。

本稿に関心を持ちそうなテーマ・キーワード:

・特発性大腿骨頭壊死症/指定難病/人工関節/長期入院/リハビリテーション:私は偶然にもこのレアな難病にかかってしまったが、長期間入院する・リハビリを受けるといった体験は、(特に高齢化の進む現代社会にあっては)誰しもが経験する可能性がある。

 そこで本稿では、特に長期入院時に必須となるIT・デジタル環境の必需品リストをまとめている(入院生活に関するマニュアルやチェックリストは山ほどあるのだが、「デジタル」という観点になるとほぼ情報が世に存在せず、これはまだ入院未経験の読者にとって必ず役立つはずだ)。ぜひ、いざというときのためのチェックリストとして活用いただければ幸いである。

・健康/スポーツ/ダイエット/プール:特に本稿では、「公営プールでの水中歩行(以下、プール・ウォーキングと記す)」を中心に紹介・推奨をする。比較対象としてはロード(公道)でのジョグ・ラン・サイクリング、ジムでのトレーニング(筋トレ)、さらにはサウナでの「ととのう」などとも比較した上で、そのメリットや魅力をお伝えしたい。

 結論からいうと、公営プールは(水泳ができる人もできない人も、納税者であれば)必ず一度は行ってみるべき公共施設である。そのなかでも水中歩行は、(水による浮力が働くので)身体にかかる負荷が非常に少なく、長時間・長期間でも無理なく継続しやすく、かつカロリー消費効率も高い運動である。さらに水中でのアクティビティなので汗に対する快適性も高く、塩素のおかげで清潔性も高い。また屋内温水プールなら全天候・オールシーズン常に同じ環境(気温・水温)が維持されている点も、運動継続の観点から優れている。

 とりわけプール・ウォーキングは、普段から運動不足を感じているスポーツ初心者・入門者(例:体重が重くてジョギングすると膝への負担がかかる人)にはおすすめである。ちなみに私の場合、コロナ自粛期間とこの病気のせいでほとんど運動をしなくなり、そのせいで大きく体重を増やしてしまったのだが(入院時点で95kgにまで太っていた)、この半年で約10kgの減量に成功している。

 またこのほかにも、プール・ウォーキングは「歩きながら思考や雑念を整理できる」「集中力・マインドフルネスが高まる」といった知的活動へのポジティブ効果もある(この原稿のほとんどはプール・ウォーキングをしながら構想したものだ)。さらにスマートフォンの持ち込み・利用も当然禁止なので、運動中は完全なるデジタル・デトックスも実現できる。……ということで、とにかく「いいところだらけ」のデイリーワークがプール・ウォーキングなのである。

 それでは前置きが長くなってしまったが、本稿に入ることにしよう。以下本稿では、ほぼ時系列に沿って、次の構成で記述を進めていく:

  1. はじめに:どんな病気にかかったのか? 指定難病「特発性大腿骨頭壊死症」について
  2. 入院編:入院生活に欠かせないIT&デジタル環境の必須リスト
  3. リハビリ編:プール・ウォーキングの魅力(ほか、登山なども扱う予定)

指定難病とは

 まず私がかかったのは、右足の「特発性大腿骨頭壊死症」という病気である。これは国が「指定難病」の1つに認定している病でもある(https://www.nanbyou.or.jp/entry/160)。

 そもそも「難病」とは原因不明で治療方法が確立していない病気のことを指すが、そのなかでも国(厚生労働大臣)がリストアップしているのが「指定難病」という制度である。治療が難しいということは医療費も非常に高額になりやすいため、その負担軽減を目的とした社会福祉制度となっており、私もこの制度の助成を申請して人工股関節への置換手術を受けている。

 ざっくりいうと、通常3割の自己負担でも手術費・入院費含めて20万近くかかるところが、月3万円(ただし入院時の食費や衣服レンタル費などは除く)以内の自己負担でおさまっているため、だいぶ経済的にはありがたい制度であるといえよう。もちろん大きな病にかかるのは不幸なことではあるのだが、それが指定難病であったことは「不幸中の幸い」であった。

発病から発覚まで

 さて私がこの病気にかかっていることが分かったのは2024年1月のことだったが、おそらく発病じたいは数年前から始まっていたと思われる。

 というのも右足の股関節に違和感や痛みを感じるようになったのは、かれこれ2年ほど前(2022年夏頃)のことだったからだ。最初はなんとなく関節痛の類いだろうと思って、1年ほど放置していた。ちょうど新型コロナの自粛期間だったので、自宅を出歩く機会もほぼなく、正直足が痛くてもあまり日常生活への支障を感じなかったのだ。

 しかしその後も痛みは強くなり、コロナも明けて外出・歩行する機会も増えてきたことから、2023年の夏頃から接骨院での治療(指圧・マッサージ)を受けることにした。実際、施術後は血行も改善して痛みも和らぐので、「このまま続ければいつかは治るだろう」くらいに思っていた。

 それでも、股関節の痛みはどんどん強まる一方だった。最初は15分程度だった歩行可能時間も、次第に10分→5分と短くなっていき(しかも右足を引きずらないと歩けない)、しまいには通勤はおろか、ゴミ出しの際の階段のわずかな昇降、自宅内でのトイレや着替え(右足で立ってパンツを履くことすらできない)といった日常生活にも支障をきたすようになってきた。

 こうした状況をみて、2024年の1月に接骨医から「特発性大腿骨頭壊死症」の可能性を示唆され、fMRI装置のある大きな病院での診察を勧められた。というのもこの病気は骨の中で進行するため、レントゲンだけだと正確に診断できず、骨の中の血流も可視化できるfMRIでの診断が必要になるのだという。そこで私はすぐにfMRIのある自宅近くの病院を検索し、その日のうちに診断を受けたところ、まさに「特発性大腿骨頭壊死症」と診断されたのであった。

「特発性大腿骨頭壊死症」とは

 「特発性大腿骨頭壊死症」という病気は聞き慣れない読者もいるだろうから、ごく簡単に紹介しておきたい。この病は、足の太ももの付け根にある骨頭が壊死する(=血が通わなくなって細胞が死ぬ)ことから始まる。この時点ではただ壊死が起きているだけであり、痛みなどを感じることはない。

股関節と骨頭の図。画像は人工関節ドットコムhttps://www.jinko-kansetsu.com/pain/hip/structure/structure.html より引用

 しかし、その壊死がきっかけとなり、次第に骨頭が体重などで圧迫されていくことで、骨頭がだんだん潰れていくことになる。すると痛みが生じるようになり、最終的には安静時や睡眠時にも痛みが止まらず、歩行すらも困難になる(私の場合は発覚時点でだいぶ圧潰が進行していたが、まだ安静時の痛みまでは出ていなかったので、最終ステージの1つ手前という状態だった)。つまり発病する瞬間と具体的な痛みが出るまでのタイムラグがかなりあり、fMRIでの診断も必要になるため、早期発見や早期対処などが難しい病なのである。

 ただし本病でいうところの「壊死」というのは、癌や白血病のような悪性腫瘍などではなく、ただ血が通わなくなって骨が壊死するだけの症状であり、消化器や内臓への「転移」といった影響はない。シンプルに股関節が痛くなり歩けなくなるだけの病である。

 ちなみにこの病気は指定難病ということもあり、それほど多くの人がかかる病ではない(日本で新規にかかる患者数は年間約3000人程度とのことで、人口比率でいえば「約0.0025%=4万人に1人」と、まさに「万が一」以下の発症確率である)。とはいえ有名人でもこの病気にかかる人はおり、最近だと芸人の千原ジュニアや俳優の坂口憲二、ふるくはあの国民的歌手・美空ひばりもかかったのだという(千原ジュニアは自身のYouTubeチャンネルなどでこの病気や人工股関節手術についての入院前後の動画をアップされており、私も大いに参考になった:https://youtu.be/oiIL7MkxiIM?si=q39PIVtjZ6WKuZ1j)。

 ちなみにこの病気は、アルコール依存症との併発率が高いことでも知られている(美空ひばりは重度のアルコール依存症だった)。実際、統計的に見てみると、発病者はもともとアルコール(またはステロイド)を多用しているケースが多いのだという。そして私の場合も、おそらく30代のときの大量飲酒が原因だろうと診断された(40代以降、私は飲酒量も大幅に減らしていたのだが、おそらく30代後半の時点ですでに「壊死」自体は始まっていて、骨頭組織の「圧潰」が進行したのがコロナ以降だったのだろうと推察される)。

 ただし、アルコール(やステロイド)との相関関係の高さは明らかにはなっているものの、なぜアルコール(やステロイド)の多用が大腿骨頭組織の壊死を引き起こすのか?(あるいはアルコールやステロイドの大量摂取をしなくてもこの病気にかかる人もいるが、その原因はなにか?)というメカニズムについては、現在もほとんど明らかになっていないのだという(医学用語で「原因不明」を意味する「特発性」という接頭辞が付いているのはそのためだ)。ゆえに、いまだ予防医療の類は一切存在していない。

「特発性大腿骨頭壊死症」の治療手段:人工股関節への置換手術

 次に治療法についてだが、この病気については基本的に「治癒」、つまり病気にかかる以前の健康な状態に戻す(具体的には、壊死した骨頭組織を蘇生させる)方法は存在しない。骨頭が潰れて痛みが強まるレベルに症状が進行してしまうと、取りうる対処としては「人工股関節への置換手術」しかない(英語では THA: Total Hip Arthroplasty と呼ぶ)。これは言葉で説明するよりその「ブツ」を見てもらったほうがそのインパクトが分かりやすいのだが、実際には次のような人工部品を股関節に入れ込むという手術である。

画像は「おゆみの中央病院」https://oyumino-central.jp/hip_arthroplasty/ より引用

 人工股関節への「置換」なので、もちろん壊死が起きたほうの「骨頭」や股関節の「受け皿(お椀)」にあたる部位はすべて切除することになるし、骨頭を安定させるために大腿骨の中心を掘削し、ステム(軸)を埋め込むという大手術である(といっても、手術自体は方式にもよるが、全身麻酔をかけて約2時間程度で終了する)。

 この手術を受けることの抵抗感は人それぞれだが、私自身は前向きに捉え、すぐに手術を受けようと決意した(実際にはまだ夜寝ているときの痛みまでは出ていなかったので、そこまで手術は急がなくても良かったのだが)。その理由は、いろいろ調べていくうちに人工股関節という医療技術が近年大幅に向上していることを知り、これは早めに自分も手術を受けて、(せっかくコロナ禍も明けたのだから)健康な身体と生活を取り戻したいという思いがあったからだ。

 というのも一昔前は、人工股関節はそこまでQOLを向上させる手術ではなかったらしい。いざ入れても脱臼(人工骨頭が外れてしまう状態)を起こしやすかったり、体内で部品が安定しなかったり、部品じたいの寿命も短く再手術が必要になったりと、だいぶ不便・不快を生じるものだったようだ。

 しかし最近は素材技術の向上により、人工股関節によるQOLは著しく改善・向上した。話によれば、ほぼ健常者と変わらない生活ができるようになるというではないか。実際、過去の人工股関節はただの金属部品だったが、いまは股関節部分の摩耗が少ない素材や、再生しようとする骨がステムに入り込んでいき強固に安定するようになる素材などが採用され、人工股関節じたいも2~30年は持ち、ほぼ再手術の必要もなくなったという。また人工股関節を挿入する手術自体も、デジタル・コントロールで正確・迅速に行えるようになったり、手術法もなるべく筋肉への侵襲性が少ない手法が新たに開発されたりと、この分野の発展は非常にめざましいものがあるそうだ。

 実際、かつて2014年までは股や膝の人工関節手術を受けると一律で身体障害等級4級と認定されていたのが、現在は「健常者と同じ生活が可能になったため」という理由でこの基準は見直されている(ただし、これはいわゆる「身体障害者手帳」をもらう際の等級の話であり、障害年金を受ける際の基準はまた異なる。この障害手帳と障害年金の制度が異なるというのは、今回当事者になってはじめて私は知った)。

 また人工股関節の術後、普通に歩行生活ができている様子をYouTubeで多数見ることができたのも、手術を受けようという決心を推し進めてくれた。先述した千原ジュニアさんの動画(人工股関節を入れたあとに普通に歩行や車の運転をしている様子を撮影している)のほか、このほかにも人工股関節手術を受けた方の動画というのは多数アップされている(また整形外科医・リハビリ医による解説動画なども多数あり、再生数こそそれほど多くはないものの、YouTubeはこうしたロングテール的なコンテンツの広がりが非常にありがたいと改めて感じた)。

 以上が、私が入院をするまでの経緯である(これでもだいぶ端折ったのだが、それなりに希少な経験ではあるのできちんと記録を残しておこうと思い、つい長くなってしまった)。それではいよいよ次節から、読者の皆さんに役立つ情報をまとめていきたいと思う。

〔続く〕

この記事は、2024年10月25日に配信した同名連載をリニューアルしたものです。あらためて、2024年11月29日に公開しました。

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