はじめまして、橘宏樹と申します。国家公務員をしております。この「Government Curation(略してGQ)」は、霞が関で働く国民のひとりとして、国家経営上本当は重要なはずなのに、マスメディアやネットでは埋もれがちな情報を「官報」から選んで取り上げていくという連載です。
実はこの「GQ」は、PLANETSの有料メルマガにて、2017年12月から13回にわたって折々の政策テーマを取り上げてきたのですが、このウェブマガジン「遅いインターネット」に掲載媒体を引っ越し、新装スタートするはこびになりました。どうかよろしくお願いいたします。

「ほんとうに大事な(でも報道されない)こと」を「官報」から読み解く

 というわけで、あらためて本連載の主旨を説明いたします。みなさんは、「官報」というものをご存知でしょうか。文字通り、政府から国民への公式な報告です。法律が改正されたとか、各省が法の運用解釈の基準を変えたとか、新しい条約が締結されたとか、様々な国家行政関係のニュースをほぼ毎日伝えています。公的なメディアの名前であり、ネットでも見ることができます。(直近30日分は無料で見れます。)

 もちろん、官報のうち、とても重要なニュースなどはテレビや新聞でも扱われます。しかし、あの法改正やあの動きなどは、社会にとって本来かなり重要なことのはずなのに、なんだかこう、SNSを含むメディアでしっかり取り扱えてもらえてないなあ、と感じることが間々あります。

 世の中では、日々色々なことが起きているので、インパクトのあるニュースに埋もれてしまうのは仕方がないことかもしれません。ただ、多くのメディアが同じことばかり報道していたり、正直言って、僕にはあまり価値があると思えないトピックにメディアが長い時間を割いているような気がすることもまた、少なくありません。霞が関の中で働いている国民のひとりとして、何かできることはないだろうか、と考えました。

 そこで、メディアにあまり取り上げられていないようだけど、社会と国民にとって大事だと思える政府の動きに、もっと注目が集まるようにしたいなと考え、連載を始めました。ある官報の内容や意味について、中央政府の活動に詳しい人が目利きして共有するという意味を込めて、“Government Curation” (ガバメント・キュレーション)と名付けました。

 官報には多くの行政行動が書かれています。「官報を読めば行政がわかる!」と言っても、過言ではありません。しかし、正直、専門的でこむずかしいです。背景知識がないとわからないことも多いですし、読んでもおもしろいニュースばかり書いてあるわけではありません。多くの人が内容の意味と価値を理解するには、誰かの「編集」が必要です。なので、それを僕がやってみよう、と思い立ちました。

 取り上げる官報の判断基準は、僕の独断に基づくことにしようと思います(また、閣議決定は官報に載らないことも多いのですが、極めて重要なので当然扱います)。本当は、「メディアにあまり取り上げられていない」と判断する基準については、何かしら客観的(例えば主要数紙で延べ何字以上、主要ニュースで延べ何秒以上報道とか)な尺度を用いたいなと思ったのですが、手間のかからない良い方法が浮かびませんでした。(ありましたら教えて欲しいです。)なので、「メディアが十分に取り上げられていない」と、「僕が感じている」に過ぎない、という主観の限界にかかることは、あらかじめお断りせざるを得ないと思います。

 また、メディアでホットなトピックに引きずられないようにしようとは思うのですが、ニーズを完全に外してしまうのも本末転倒だと思いますから、例えば某国大統領が訪日の折には、外交のトピックを扱うなど、時事的な要素も考慮したいと思っております。

 それから、なるべく、各省庁の各政策分野を、偏りなく取り扱っていきたいと思います。しかし、予算規模やシリアスさは均等ではないので、結果的には、取り上げた分野に多少偏りが出てしまうかもしれません。こうしたことをひっくるめて、「キュレーション」としてどうかご理解ください。いずれにせよ、僕は自分の所属官庁を含めて、どの省の省益にもどの党派や利益団体等の意向も一切考慮せずにトピックを選定していきます。僕が誰の手先でもないことを僕が証明することは難しいので、ここは読者のみなさんに僕の志を信じていただくしかありません。どうかよろしくお願いいたします。

 一方で、この連載が、しないこと、できないこともたくさんあります。

 例えば、政権や政策の批判や評価は述べません。公僕の筋(せつ)として行ってはならないと思うからです。逆に、「メディアは取り上げてくれないけれど、政府はこんなに良い取り組みをしているんだよ、もっと知ってね」というステルス的な政府広報もしません。「忖度」もしません。また、内輪の暴露話もしません。基本的に公開情報で原稿を組み立てたいと思います。

 それから、僕の能力や時間には限界がありますので、政策の目的や経緯、メリット・デメリットの詳細な解説やより本格的な是々非々論については、専門家の方々に委ねたいと思います。この連載では、もっぱら、公開情報を簡潔に編集しながら、独立中立の立場から「この官報は、現状よりもっと注目されるべきであろう」と言及することに集中していきたいと考えています。

 僕はこれからきっと、話題選定や書きぶりのバランスをとることにとても苦慮することになると思います。しかし、あくまでひとりの国民として、霞が関で培った行政のリテラシーを他の国民と共有する、という姿勢で、多くの人がより広く深く政府の行動を理解できるよう、社会的な挑戦をしていきたいと思います。

 さて、2月下旬から3月末にかけて、未曽有のウイルス危機が世界を覆っています。メディアも新型コロナの話題一色です。店頭ではマスクとアルコール消毒液が品切れ。テレビ報道は毎日のように感染者数の推移を伝え、市井の不安の声を拾い、医師は手洗いうがいを呼びかけます。首相からは公立小中高への休校要請がありました。共働きの家庭のフォローを含め各地方自治体が必死で対応しています。大規模な経済政策も順次展開しています。テレワークを実施する企業は急速に増加。スポーツやイベントも軒並み中止・延期か無観客開催。歓送迎会も自粛。観光業は大打撃。世界でも国内でも株価が乱高下。ついにオリンピックも延期となりました。若者にも死亡者が出てきています。東京都は隣接県と共に外出の自粛要請を行い始めました。未曽有の国難です。この危機的状況に対して、日本も世界も今必死に立ち向かっています。

 しかし、悲しいかな、メディアの報道量とは関係なく、国家の大問題はコロナウイルス以外にもたくさんあるのが現実です。目下のコロナ危機よりも重大な案件ばかりではありませんが、現在開催中の通常国会では、日本の将来を左右しかねない様々な重要な法案が提出され審議が行われていることもまた事実です。本稿は、世の中の空気を読んだ上で、あえてそうしたトピックを取り上げていきたいと思います。

 リニューアル初回となる今回は、いわゆる「スーパーシティ構想」と呼ばれる、国家戦略特別区域法の一部を改正する法律案(2020年2月4日閣議決定)を取り上げます。というのも、スーパーシティ構想は、今後の日本のイノベーション力の発展や持続的な地方創生の行方を左右する重要な内容であると同時に、生活のあらゆることが否応なく情報化していく現代において、絶対に向き合わなくてはならない論点を含んでいるからです。また、あわせて、これを機に、主権者である我々にとって、スーパーシティのような規制改革のために用いられてきた「特区」という政策の歴史や本質についても、みなさんと一緒に振り返りたいと思います。

「丸ごと未来都市を作る」

 スーパーシティ構想とは、人工知能(AI)やビッグデータなどの先端技術を活用して「丸ごと未来都市を作る」ことを目指す構想です*。
*2019年08月21日 ニッセイ基礎研究所総合政策研究部 研究員・経済研究部兼任 清水 仁志氏「規制改革の大本命、スーパーシティ構想-都市のデジタルトランスフォーメーションにより、日本は成長できるか」

 例えば、以下のような10領域のうち少なくとも5領域以上をカバーする都市をイメージしています。

(2019年2月14日 国家戦略特別区域諮問会議作成「「スーパーシティ」構想の実現に向けた今後の取組について」資料より)

▲スーパーシティの具体像
(2020年3月 内閣府地方創生推進事務局作成「スーパーシティ」構想について より)

 生活の随所にIT(AIやビッグデータ)が使われまくっている都市、というイメージでだいたいOKだと思います。例えば、マイナンバーのバーコードが表示されるスマホを持っているだけで、買い物ができて、電車にピピっと乗れて、あちこちの病院で自分のカルテをピピっと示せて、納税もピピっと出来て、災害時には自動で居場所を伝えられて、教育内容も自分専用にカスタマイズしてもらえる、というような感じです。「スマートシティ」という単語に聞き覚えのある方はどこが違うの?と思われるかも知れません。ITを使いまくっているという点では同じだと考えていただいても大丈夫だと思いますが、政府の政策としては、スマートシティでは、エネルギーや交通系の最先端技術の個別の実証実験を行うのが主であったのに対して、スーパーシティは、様々な先端技術を同時に導入し連携させる点で「次元が違う」概念だと整理されています*。
*国家戦略特区 「スーパーシティ」構想の実現に向けて(最終報告)

 また、SDGs(持続可能な開発目標)の実現にも貢献するということで、スライドの右上隅にはSDGsのロゴも入っています。SDGsについては過去の拙稿をお読みいただけたら幸いです*。
*橘宏樹 GQーーGovernment Curation 第11回 SDGsのわかり方

データ連携の是非

 さて、スーパーシティ構想で最も議論となる論点はおそらく、データ連携の是非でしょう。スーパーシティでは、物流や防災や福祉など様々なサービスで用いられているデータを分野横断的に連携させます。暗号化された個人情報も含まれてくるでしょう。

▲スーパーシティのデータ連携について
(2020年3月 内閣府地方創生推進事務局作成「スーパーシティ」構想について より)

 個人の様々なデータが収集されること。それらが連携すること。これを「便利なのは良いことだ」「データ集中一括管理は仕方ない」と思うか、「行政にすべて情報が監視されているのは気持ち悪い」「個人情報が漏洩しないか不安だ」と思うか。人によって感じ方が大きく分かれるところだと思います*。
*2019年2月21日 技術進歩の先にある超監視社会 スーパーシティ構想は何をもたらすか(長周新聞)
*2020年2月20日 社会のDX化を促進するスーパーシティ法 (BLOGOS 鷲尾英一郎氏)

 内閣府の資料にも、カナダのトロントではGoogle系列会社が行政と連携し、ありとあらゆる場所、ヒト・モノの動きをセンサーで把握しつつビッグデータを活用する都市設計が進行中ながら、住民の不安による混乱や遅滞も見られているとの例が挙げられています。

 そこで、例えば、「高齢者が多いので高齢者のケア関係のサービスをことごとくIT化したい」など、地域課題に対応するべくスーパーシティ特区を認めてもらいたい自治体が、「住民合意」をとりまとめたならば、(「スーパーシティ構想を実現する上で主要なプレーヤーに反対がないことを確認する住民合意を称する書面を添付して」総理大臣に出したならば)、手続きが前進するという案になっています。ですから、特区申請の目的は住民が合意してくれそうな内容か、合意をとりまとめられる首長のリーダーシップがあるかがカギになってくることになります。

 内閣府によれば、令和2年3月2日現在で、53団体がスーパーシティのアイディアを提出しているとのことです。

▲スーパーシティ構想 自治体アイディア公募の結果
(2020年3月 内閣府地方創生推進事務局作成「スーパーシティ」構想について より)

特区としてのスーパーシティ

 個人情報の管理以外にも、スーパーシティ実現の前に立ちはだかる大きな壁があります。国の規制です。たくさんあります。例えば、ドローン配達をしたくても航空法上、こういうモノはこういう範囲では飛ばしてはダメだとか。遠隔地にオンラインで服薬指導したくても、薬剤師法上認められていない、とか。そこで、「様々な規制を取っ払って、この地域では色々やれるようにしたい!」と自治体が政府に申請して許可されたならば、その地域ではやってよい、とする「国家戦略特区制度」というものが既にあるので、この枠組みを活用して「スーパーシティ」を実現させよう、というわけです。

 特に、今回の国家戦略特区法の改正案では、様々な規制緩和の申請を一括で行えるようにしたり、住民合意があったら首相から(反対する)各省庁に特例措置を要請したり、諮問会議が意見や勧告したりする仕組みもあります。規制緩和における「抵抗勢力」への対抗策がかなり強化されていると言ってよいでしょう。
 このような対抗策が加えられるに至るまでに、規制緩和政策としての特区制度における長い試行錯誤の歴史があります。以下に、振り返ってみたいと思います。

特区の歴史:三つの特区。三本目の矢。三度目の正直。

 規制は、基本的には、安全や平等など、重要な公益を守るために存在しています。なので、一概に既得権益だ、悪だと、直ちに敵視するのは正しくないように思います。しかし、時代も変わり、テクノロジーも進歩し、地域の個性や国民の価値観の多様化も進めば、少なくとも規制の内容や方法や範囲は変わっていかなくてはならないでしょう。しかし、変化のかじ取りをする責任を誰が取るのか、変化のバランスをどのように取るのかもまた、簡単ではありません。各省庁は国全体のことを考えるからこそ、責任があるからこそ、最もセーフティーなラインに揃えて最悪の事態を考えて規制政策を展開したいと考えます。問題が生じたら国会でも追及されます。なので、結果としては、大半の地域や人々にとって、窮屈な規制が展開してしまうということが生じます。そこで、「特別に許可が出た地域に限り、特別にやってよい」とする、特区制度という政策手法が生み出されて、採用されてきました。
 そして、特区制度の根幹には、限定された地域で実験してみて、様子を見て良さそうならば、全国に広げようという発想があります。

・三つの特区
 これまでに政府は、約20年をかけて、①構造改革特区、②総合特区、③国家戦略特区という3つの特区制度を順に設けてきました。現在はこれら3種類の特区が併存していますが、今日に至るまで、特区制度は、反省と改善を繰り返す、非常に興味深い試行錯誤の歴史をたどってきました。

首相官邸作成「特区制度のあゆみ」

①構造改革特区
 1つ目の「構造改革特区」は、2002年、小泉政権の構造改革の目玉として、「地域に合わない規制を見直し、 地域活性化」することを目的に創設されました。例えば、酒税法上の措置が緩和された「どぶろく特区」という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。また、この特区は「補助金なき地域支援」と呼ばれ、文字通り構造改革の一環でもあったこともあり、特区に補助金を出すというようなことは行われませんでした。

▲構造改革特区の事例(首相官邸作成リーフレットより)

 しかし一方で、「申請されるメニューが小粒である」「手続きの負担が大きい」「全国展開制度によって、むしろ特区を申請する先行者利益が失われる。」「担い手が不足している。」といった批判も寄せられてきました*。
*構造改革特区制度の問題点(言論NPO「安倍政権実績評価」)

 というのも、自治体職員の多くの方々は、国の定めたマニュアルや基準に基づいて施策を実行することに長けた方々です。なので、国に対して、それらのマニュアルや基準を変更してくれ、取っ払ってくれと言うことや、そのために、説得交渉や材料集めをする作業には必ずしも習熟していません。実際、これはかなり骨が折れる業務です。その上、苦労の末に全国に先駆けた取り組みを行う特区を実現しても、すぐさまどんどん横展開されてしまうということになれば、旨味が少ないです。補助金も出ないとなれば、なおさらです。このように自治体にとって、また、自治体職員にとって、コストが高くインセンティブが小さい政策が成功するのはなかなか難しいです。こうした点は民間企業と同じです。こうした行政現場のリアリズムを、公務員にシゴトをさせている主権者である我々も、よく理解しておかなくてはいけないと思います。

②総合特区
 2つ目の「総合特区」は2011年6月、民主党政権下で設けられました。総合特区は、実現可能性の高い先駆的取組を行う区域に、規制・制度の緩和に加え、税制・財政・金融上の支援といった総合的な支援を行うものです。総合特区には「都会系」(「経済を牽引する新たな成長分野の開拓」を掲げて、産業集積させる都会系特区(国際戦略総合特区))と「田舎系」(地域資源の活用を目指す地方系特区(地域活性化総合特区))の2種類があります。また、自治体が特区申請をするインセンティブが弱いという構造改革特区の反省に立って、各省の予算の範囲で財政的な支援も行われています。

 例えば、関西イノベーション国際戦略総合特区では、重点6分野(医薬品・医療機器・先端医療技術・先制医療・ バッテリー・スマートコミュニティ)において新たな事業展開を図ろうとする企業を、 国・自治体、経済団体が一丸となってサポートしています。また、規制の特例措置に加え、財政・税制・金融上の支援措置が総合的に実施されます。

関西イノベーション国際戦略総合特区の概要(同特区HP内資料より抜粋)

 しかし、複数の省庁の規制緩和を求める時は、それぞれの省庁にいちいち個別に申請しなくてはならず、相変わらず手続きの負担が大きかったり、自治体の自主性尊重というよりもむしろ、各省が進めたい政策に沿った特区が認められがちで「上からの特区」という感がある、という批判も寄せられました*。
*2013年4月 日本総研調査部 高坂晶子主任研究員「「総合特区」の実効性向上に向けて」 (JR Iレビュー 2013 Vol.5, No.6)

③国家戦略特区
 3つ目の「国家戦略特区」は、安倍政権下の2014年、アベノミクス「第三の矢(規制改革)」の目玉として「世界で1番ビジネスのしやすい環境」を目指して設けられました。また、前2つの特区では自治体のみが申請主体であったのに対し、民間企業や団体も名を連ねることができるようになりました。これは非常に大きな違いです。ビジネス上のインセンティブを特区に持ち込む民間企業等と自治体が協力すること、特区を求める側の主体性や提案能力を補強しようとしているわけです。

▲現在、国家戦略特区として指定されている10の地域(首相官邸HPより

 さらに、上述のとおり、この度の法改正によって、複数の規制改革事項を一括して進めることを可能にしたり、住民の同意を得た上で国に申請すれば、首相が担当省庁に規制緩和の特例措置を要請するという仕組みを設けたりすることで、申請者の手続き負担を軽減させたり、規制官庁への対抗力を強化しようとしています。前2つの特区の反省を活かして、インセンティブの増強と手続きコストの削減を試みているわけです。

 総じて、3つの特区制度が設けられてきた経緯とは、規制緩和のコスパをめぐる試行錯誤の歴史と言っても過言ではないのです。

 そして、スーパーシティ構想を含む国家戦略特別区域法の改正自体も試行錯誤を重ねています。実は、スーパーシティ構想の法案提出は今回で、3度目となります。2019年6月に初めて通常国会に提出されましたが、6月26日の閉会で廃案になりました。というのも、特区指定を受けたならば、自治体が定める条例で、国が定めた法律で決められた規制についても緩和が可能という内容が、憲法94条の「地方公共団体は(中略)『法律の範囲内で』条例を定めることができる」に反するのではないか、と内閣法制局が反対したため、調整に手間取ったからです*。
*2019年7月2日 廃案になったスーパーシティ構想、周回遅れからどう追い付く(日経ビジネス 多田和市氏)
*2019年4月3日 スーパーシティはどこが問題なのか(日経新聞 憲法のトリセツ 上級論説委員兼編集委員 大石格氏)

 内閣法制局との調整が済み、その後、2019年10月の臨時国会での成立を目指しましたが、今度は党内調整が間に合わず、再び廃案となりました*。
*2019年10月10日 スーパーシティ見送り(朝日新聞)
*2019年10月10日「未来都市」を作るスーパーシティ整備法 またも先送りで野党失望(J CASTニュース)

 そして、現在2020年2月、通常国会に法案としてあらためて提出され、審議にかけられ始めているところです*。
*2020年2月26日 政府肝煎りスーパーシティ構想 スマートシティの先駆けとなるか(日経クロストレンド)

まとめ~特区は誰得か~

 さて、3つの特区制度の歴史を振り返って来ました。新しい特区制度ができる度に、以前の特区制度の欠点を補う工夫が加えられてきたことがお分かりいただけたのではないかと思います。特区成功の最大の条件は、特区を申請する主体のインセンティブと能力だと思います。得する人がいなければ、また、ビジョンを描いて実行できる人がいなければ、規制緩和は進みません。この点、スーパーシティ構想では民間事業者も申請者に加わることができます。特区20年の反省を活かし、金銭的に得する人たちの推進力や自治体以外の人々のチカラを大きく活用する方向へと大きく舵を切った大胆な制度設計になっています。特区という制度の存在意義は、規制改革というより、未来都市の社会的な実現手段へと、大きくスケールアップすると言えるでしょう。

 しかし、もちろん、特区に参加する民間企業の活動には、行政に求められる水準に近い公平性や透明性も求められてくるでしょう。特に、AIやビッグデータの活用のために、個人情報が超大量に集約され連携されること、その運用に民間企業が参加することに対して住民が感じる不安に対処する必要があります。この点をクリアするべく、上述のようにスーパーシティ実現には「住民合意」が条件となるとのことです。今後は、具体的に、どのように、どの程度の住民合意を獲得していくのか、といった点が審議の焦点になってくるでしょう。
 いずれにせよ、僕たち主権者としては、スーパーシティをめぐる議論を注視しながら、特区制度という政策自体が住民と国民にとって真にお得な選択肢となるよう、これからも育てていければいいなと思います。

[了]

この記事は2020年4月2日に公開しました。
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