デザイナー/ライター/小説家の池田明季哉さんによる連載『”kakkoii”の誕生──世紀末ボーイズトイ列伝』。今回は、「変身サイボーグ」の後継シリーズ『ミクロマン』です。ミクロマンが示した「先進的な想像力」を、20世紀的な男性文化をアップデートするヒントとして読み解きます。

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端的に言うとね。
本連載では、「魂を持った乗り物」という概念を通じて、玩具のロボットが持つ中間性を分析してきた。それではミクロマンは果たして、いかなる意味で「魂を持った乗り物」なのだろうか。
すでに述べたことであるが、本来ミクロマンは変身サイボーグのシリーズ後継作である。歴史的には、変身サイボーグ→ミクロマン→ダイアクロン→トランスフォーマー→勇者シリーズ、と流れていくのが正しい順序である。しかし本連載においては、ミクロマンをトランスフォーマーや勇者シリーズの先に存在する想像力として位置づけた。
まず、「魂を持った乗り物」とは、工業技術というテクノロジーが男性文化とどのように結びついてきたかという側面から、世紀末ボーイズトイの分析を通して得られた概念であった。その根源的な動機は、世紀末ボーイズトイの中に男性文化をアップデートするヒントを見つけることにある。それは情報化以前=20世紀に試された想像力の中から、情報化以降=21世紀の萌芽を探す営みだったとも言い換えられる。これまでも、たとえばトランスフォーマー(スパイクとバンブルビーの関係)や勇者シリーズ(星史少年とダ・ガーンの関係)の分析に、技術的な未来の萌芽を見出してきた。ここではミクロマンが、70年代にあって、すでに「乗り物」という20世紀的な美学から一歩先に踏み出したところに存在している――つまり本連載の基準においてもっとも先進的な想像力にたどり着いていた玩具であったと考えたい。では、その先進的な想像力とはなんだったのか?
「魂を持った乗り物」としてのピノキオ
どうやらミクロマンを、言葉通りの意味で「乗り物」として考えることはできそうもない。しかしこの物語の登場人物の中に、すでに「乗り物」は登場している。そう、それは「遊び手」自身だ。
どういうことか。たとえば勇者シリーズにおいては、遊び手の世界と玩具の世界はわかたれており、その構造を正確に記述しようとする試みがなされてきた。「少年」は「魂を持った乗り物=ロボット」に命じることで、フィードバックを受けつつも、戦いの世界に参加し、理想の成熟のイメージへとアクセスしていく。ところがミクロマンの想像力は、現実世界と遊びの世界を逆転させている。つまり現実世界がミクロマンの想像力の舞台である以上、「少年」がミクロマンを通じて別世界にアクセスするのではなく、むしろミクロマンの側が遊び手を通じて現実世界に越境してくることになる。
「乗り物」とは、20世紀的マスキュリニティにおいては精神を拡張する肉体の延長であり、そして遊びにおいては想像の世界にアクセスするためのデバイスであった。しかしミクロマンをジミニー・クリケット的な存在として考えるのならば、むしろ「乗り手」はジミニー・クリケットのほうであり、「乗り物」がピノキオと捉えるほうが自然だろう。小さなジミニー・クリケットは、あくまでピノキオという肉体を通じてしか社会に参加することはできない。ゆえにジミニー・クリケットの目線からピノキオという物語を捉え直すのならば、「良心」という思想を社会に反映するために、ピノキオという「乗り物」を経由するということになるだろう。つまり、ミクロマンの想像力においては、その舞台が現実世界そのものである以上、ミクロマンこそが理想の成熟のイメージという精神性を反映させようとする「乗り手」であり、その命令を内なる声として社会に媒介する遊び手こそが「乗り物」となるはずなのだ。
ポータブルデバイスとしてのミクロマン
これは単に文学上の議論だけではなく、実際の玩具の仕様としてもそのような側面を持ち合わせている。
ミクロマンという商品を特徴づける仕様のひとつに「カプセル」というものがある。その初期において、ミクロマンは水晶の中で休眠しており、そこにスペクトルMXと呼ばれる特定の周波数をもつ電磁波をぶつけることで覚醒するという設定が与えられていた。「カプセル」は、直接的にはこの物語を再現したものであり、同時にミクロマンの商品パッケージも兼ねていた。子どもたちは店頭に並ぶ「カプセル」を手に取り、それを開封することで、覚醒したミクロマンと出会ったのである。
この「カプセル」は開封後も再利用可能で、ミクロマンを内容できる事実上のケースとして機能することができた。「カプセル」にはいくつものバリエーションがあるのだが、そのうち80年代のニューミクロマン期に作られたものには、ベルトに装着することができるフックと、コインを入れておくことができるスロットが設けられていた。ベルトのみならば屋内で装着する遊びを想定していたと考えることもできるだろうが、「お小遣い」が必要とされるシチュエーションは明らかに屋外に限定される。これはミクロマンがその受容において、一緒に外に出かける――遊び手が「乗り物」となるイメージを内包していたことを意味するだろう。

ミクロマンの21世紀
もう一度サイボーグライダーに遡って、この事実が意味しているところを考えたい。サイボーグライダーは、変身サイボーグがバイクとなったものだった。それはバイクが魂――意志をもった存在として、ライダーの操作――意思決定を助けるという、主体の複数化を想像させる玩具だった。しかし冷静に考えてみれば、ここで「乗り手」の側に主体を固定する理由は存在しない。「乗り物」の側に魂・意志が存在しているのであれば、そちら側を主体として、「乗り手」の側がそれをサポートする構図を考えてもよい――「乗り手」が「従」で、「乗り物」が「主」となってもよいはずである。
「乗り手」が「主」に、「乗り物」が「従」に置かれてきたのは、本連載でG.I.ジョーから数えてきた玩具たちが、精神が肉体を通じて社会に短絡する、男性文化における理想の成熟のイメージとして機能してきたためである。しかし精神を直接社会に反映させるマスキュリニティを追及するルートは、結局のところ支配と暴力にしか結びつかないという不可能性をすでに分析している(映画版トランスフォーマー)。そしてこれを乗り越えるために提示されていたルートは、支配と暴力によって成熟を仮構することを拒否し、子どもとして「冒険」を続けることだった(『黄金勇者ゴルドラン』)。その前提で成熟のイメージを模索した結果、「乗り手」と「乗り物」の距離をゼロにする――「融合」させることでもう一度社会に接続した結果、「乗り手」同士が「青春」を通じて成熟していくモデルを提示した(『勇者司令ダグオン』)。
ミクロマンの想像力は、この『黄金勇者ゴルドラン』の先、『勇者司令ダグオン』と平行なルートに位置づけたい。『黄金勇者ゴルドラン』が未成熟に留まったという問題への解答として、ダグオンは「乗り手」の中に「乗り物」を取り込んだことで主従を無化し、そして時系列的に遡るミクロマンは「乗り手」と「乗り物」の主従を逆転させるというかたちで先んじて答えを出していたのである。
そしてミクロマン的な想像力をさらに進めるのならば、「主従」という概念すらも解体することができるだろう。ジミニー・クリケットを「乗り手」、ピノキオを「乗り物」というとき、ピノキオもまた主体を持つ「魂を持った乗り物」であることは明白である。「乗り手」と「魂を持った乗り物」が、それぞれ独立した精神を持ち相互に補完し合う主体であると考えるならば、「乗り物」とはあくまで現実世界に直接作用できるアクチュエーターが付随している側、という意味にすぎなくなる。実際にミクロマンの想像力においても、その舞台は我々が生きる現実世界に固定されているわけなのだが、「少年」と「ミクロマン」の活動領域はそれぞれ異なっている。少年は日常生活を送る過程でミクロマンの声を聞くことになるだろうし、ミクロマンは戦闘や調査といった人知れぬ任務を少年のサポートを得ながら行うことになる。前者においては少年が「乗り物」であるだろうし、後者においてはミクロマンのほうがむしろ「乗り物」であるということになるだろう。そもそも「乗り手」が「主」で「乗り物」が「従」と、その関係を主従関係で捉えること自体が、20世紀的な男性性の美学の枠組みであり、ミクロマンは結果としてそれを高度にアップデートすることに成功していたのだ。
そしてこのルート――ミクロマンが示した想像力こそが、21世紀に来たるべき未来を言い当て、20世紀的な旧き男性性をアップデートするヒントを宿した〝正解〟だったと考えたい。
なぜそう言えるのか。
我々は現代の情報化社会において、ポケットの中に入れて持ち歩き、ジミニー・クリケットのようにサジェスチョンを与えてくれる存在がすでに実装されていることを知っているからだ。
それはスマートフォンと人工知能である。
(続く)
この記事は2025年12月16日に配信した同名連載をリニューアルしたものです。あらためて、2026年1月29日に公開しました。バナー画像出典:『タカラSFランドエヴォリューション 「変身サイボーグ」の後継者たち』(双葉社)p8
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