20年後の「津上翔一」

宇野 このコーナーのコンセプトは、僕がただ単に「会いたい人に会いに行く」というものなのですけれど……とても感激しています。翔一くんが目の前にいる……(笑)。

賀集 (笑)。それってずっと僕に会いたかったということで合っていますか? 僕も宇野さんのことは「スッキリ!」でよく見ていました。『仮面ライダーアギト』を観られていたということですよね?

宇野 僕は子供のころに『仮面ライダー』が好きだったんですが、大人になってからもう一度興味を持つきっかけになったのが『アギト』だったんです。
 当時僕は大学生だったんですけれど、たまたまテレビをつけたら、『アギト』の13話か14話を放送していて……たしか翔一くんがサソリのアンノウン(怪人)に首を刺されて、危うく死んでしまう……という回ですね。それをたまたま観て、面白くてびっくりした。当時の僕はすでに理屈っぽいテレビドラマのオタクでもあったので、90年代のアメリカのサイコサスペンスドラマと、東映の刑事モノの要素を「仮面ライダー」というファンタジーの中にうまくミックスしているな、とかそういうことまで考えました。とにかく、ものすごくコンセプチュアルな作品を作っているな、と。

賀集 それは「来年続くかどうかもわからない、だから今年絶対おもしろいものを作らなきゃいけない」という想いもあったからだと思いますね。もちろんそういう熱意は今もあるとは思うんですが、あの頃は特別なものがあったと思います。

宇野 あとは、なんといっても井上敏樹さんの脚本ですね。登場人物の一人ひとりがとにかく魅力的で……。
 特に翔一くんが魅力的で、ああいうヒーローっていなかったと思うんですよ。なんというか、超越しているでしょう? たとえば序盤にアンノウンに家族を殺されて、帰郷することになる登場人物が出てくるのだけど、翔一くんだけは周囲の人がなんで寂しがっているのかわからない。「会いたくなったら、会いに行けばいいじゃない」とか言ってけろっとしている。あと、中盤で警察に問いただされたら、「実は僕、アギトなんですよ」ってぽろっと言っちゃう。

賀集 翔一ってそういうところあります、あります! 演じるうえで、何も考えてないのか、計算された行動なのか当時から悩みましたけど(笑)。

宇野 そして、今日お会いして、改めて思ったんですけれど、賀集さんってほんとうに翔一くんそのものですよね。ちょっとビックリするくらい。

賀集 当時はお芝居や演技自体も初めてで、右も左もわからず、作ってやるというよりかは、与えられているものを無我夢中で一生懸命やっていました。直感的に「これが翔一っぽいな」、と思ったものがああいう形として出たと思います。どちらかというと自分に役を近づけてやっていた感じですね。

宇野 井上敏樹さんは何十話もある長いシリーズを担当するときは、役者を見てキャラクターを調整していくんだという話を聞いたことがあります。そう考えると、賀集さんのキャラクターに翔一くんが引っ張られていったのかもしれませんね。

賀集 う〜ん、そうですね。ちょうど今年で『アギト』も20周年で、僕も『アギト』がデビューだったので今年で役者としても20周年になるんです。今思い出すと……新人だった自分がああいう大役を演じることができたということはかなり大きくて。他の現場をそのあと色々やらせてもらったんですが、やはり『アギト』で演じた津上翔一という役のイメージが鮮明に残っているんですよね。一時期、これが嫌なときもあったんです。『アギト』の後の数年間は、あそこを卒業したいと思っていました。俳優として「仮面ライダー」のイメージを超えるには卒業しないといけないと。

 でも、そうじゃないんだなと30歳を過ぎたあたりから思い始めるようになりました。代表作がデビューの時点であるということはとても恵まれていることですし、逆にこれは自分にとっての武器なんだろうなと。その頃からようやく『仮面ライダー』を受け入れられるようになって、20年経った今は逆に『仮面ライダー』に近づいて、また何かやりたいなという気持ちになっていますね。

賀集 特にSNSをやっていると、インドネシアや南米に『仮面ライダー』のファンの方たちが驚くほどたくさんいて、メッセージをもらったりするんです。だから世界に向けて何かやりたいなと、強く思っています。それこそ、アジア版『アベンジャーズ』みたいなものを作りたいなっていうことは考えてるんですよ。もちろん自分だけではできることではないんですけれども……。

宇野 それ、夢のような話ですよね。平成の『仮面ライダー』を支えた役者さんたちが一堂に会する映画があると、ものすごく面白くなると思います。今すぐにはできないかもしれないけれど、いつかそういうことができるように今、このタイミングで盛り上げておくのも大事だと思います。当時『アギト』を観ていた子供たちも、もう20代半ばとかになっているはずですからね。

賀集 現場の若いスタッフさんにも「実は僕『アギト』見てました」という人たちが多いので、ちょうどその世代の子たちが社会人になって一緒に仕事をしてるということを考えると、20年経ったのかと。感慨深いものもありますが、「歳とったな〜」と思います。
 当時から大人のファンが多いことは感じてはいましたが、あのころは今よりみんな隠れて「ファンです」と言ってくれる人たちが多い時代でした。それがここ5年くらい、生放送の番組や舞台なんかでお客さんと直接会えるタイミングになるともう『仮面ライダーアギト』のグッズをいっぱい持ってる人たちが出待ちしてたりして(笑)。こういう人たちに本当に支えられているんだなとすごく感じましたね。

30歳で大学へ。日本の伝統文化を残すためにできることを考えたい

宇野 賀集さんご自身についても色々お話を伺いたいと思うのですが……やはり未だに印象に残っているのが、賀集さんが大学に入られたことが報道されたときのことです。「変わったことをする人なんだな」と思って見ていました。

賀集 はははっ(笑)。変わってますよね。30歳のときに國學院大学に入学しまして。ひょんなことなんですが、ある時「日本人なのに日本のこと知らないな」と思ったのがひとつのきっかけですね。それで日本のことを勉強したいなと思って、本を読んだり調べたりしてると、「神道」という文字がひたすら出てきて、「神道ってなんぞや?」というところから始まりました。はじめは神社と寺の違いもわからなかったので、元々古来から日本の宗教というか、そういうものが神道っていうんだっていうことを知って。これを専門的に勉強したいなと思って調べたら、大学で勉強できるところが2校しかなかったんです。渋谷にある國學院大学と伊勢にある皇學館という大学ですね。仕事をしながら通えるところとなると、國學院大學かなと。

宇野 國學院大學のあの学科は、神主さんを養成するコースがあるところですよね?

賀集 そうです。学生さんの7割くらいは神主の息子さんや娘さんのでしたね。それ以外にも僕くらいの年齢やもっと上の年齢の人で、神道の勉強をしたいという方がいました。

宇野 神道に興味を持って宗教学を学ぶ方はたくさんいますが、本当に國學院大學に行って神主の卵と一緒に勉強する人ってなかなかいませんよね。そこがすごいなと思うんですが……。

賀集 確かにそうですね。でも、日本のそういう考古学とかでもそうなんですけど、すべてを辿ると神道というものは絶対外せなくて、神道を中心に考える方がおそらく一番の近道なんじゃないかなというのは、入学してから感じました。
 ちょうど僕が大学に入った頃はパワースポットがブームで、神道がとても人気になるのかもしれない、と思ったんですが、実際に流行っていたのは「縁結び」や「神社」だったんですね。僕が面白いと思っていたのは「ここにこの神社があって、この神様が祀られている理由を深掘りすると、こういう歴史があって、ここの神様というのは神話の中でこういう描かれ方をされているから縁結びの神様になっているんだな」というルーツや思想でした。でも当時は「ここに行けばご縁があります」といった具合に機能の話ばかりで、「面白いのはそこじゃないのにな」と思っていました。

 実際学校に行って学んでみて、工芸などの日本の伝統的な文化が時代とともに若い子たちに忘れられて、失われそうになっていることも知りました。なんとかしてそういう人たちに日本の良さを伝えて残していかなくては……という想いが強くなっていっていて。まだ何もできてないんですが、いずれはお仕事として携わりたいなと考えています。

▲賀集さんが伊勢神宮に訪れた際の写真(賀集さんのTwitterより

宇野 僕は昨年、あるプロジェクトで地方に出張する機会が多かったんです。当たり前のことかもしれないですけれど、日本には今は寂れているけど、昔から人が住んでいたところがたくさんあるんですよね。そこにはだいたい古い神社があって、伝説があって、それらはだいたいその土地と人がどう関係を結んできたかを表している。だから神社とそれにまつわる物語には100年、1000年という単位でそこの人間がそこの土地とどう付き合ってきたかが凝縮されている。僕もこの歳になって、土地を読むとは、神社のような場所に足を運ぶことなんだということに気づきました。

賀集 そういう神社も氏子が亡くなっていって、神社を支える人たちがいなくなることで、どんどん数が減っているのが現状です。そういうものを生き残らせるためには、かっこいい言い方をすると「地方創生」みたいなことが必要なんじゃないかと思っています。やはり昨年から働き方や住まいに関する価値観がだいぶ変わったと思うんです。別に都市部に住まなくても仕事ができる時代になったことに、みんな気づいてきましたよね。この流れに便乗して、地方に住んだことがない人でも思い入れのある、好きな場所に行ってそこに住んで仕事ができるような流れができて、人が分散されるとそういうところが残っていくような気がしています。

宇野 神社に残っている土地の記憶は、長い時間その土地の人がどうそこに住んで、何をつくってきたかということを表現していて、それって今の地方経済を支えている中央から流し込まれた税金をどう誰の懐に入れるかというゲームはそういった土地の記憶と完全に切りはなされているわけです。要するにその土地に住んで、そこの土地のものを食べて、そこの土地の水を飲んでいても、土地とそこに住む人たちが、つながっていないということです。だから今あるものをそのまま残すのではなくて、このタイミングで土地と人間との関係を別の形で結び直すということが、必要なことだと思うんです。

賀集 第一次産業で働いている漁師の人たちからも、20代の若い子たちは昔からのしきたりだったり、今ある組合を変えたいと何とかしようとしている声は聞きます。でも人数も少ないし、上にいる人たちが作った輪のようなものががっちりと鎖でつながっているだろうから、それを解く術がなかなかないのだろうな、と思いますね。

今、世界には「津上翔一」が必要だ

宇野 徐々に今後のことについてお伺いしたいのですけれど……。僕と賀集さんは、ほぼ同年齢なのですけれど、たとえば40代になってみてなにか思うことってありましたか?

賀集 うーん、どうでしょう。20代の頃は多少尖っていたかもしれませんね。怖いものもなかったでしょうし、勢いもあったので。大学に行くと決めた30代のときでさえ、そこまで先のことを考えていなかったんですが、40代になると先のことしか考えないくらいになってしまって。「今よりも何年か先にこれがしたい、こうなっていたい」という思いが強いですね。
 昔は好きなことと仕事って別だったじゃないですか。あえて別にしていたかもしれないし。でも今ってそれを一緒にできるし、逆にそっちの方が良かったりもしません? 

宇野 そうですよね。30代の頃の僕は来た球を全部受けていたんですけれど、今はもう自分が明日死んでも後悔しないような選択をしたいと思うようになっていますね。もちろん100%本当にやりたいことだけをやれるわけではないけれど、自分の「納得感」は大事にしていこうと思っています。

賀集 納得感、大事ですね。僕も同じで、嫌々やることはあまりないんですけど、本当にやりたいものを一番に考えてやった方が良いなという思いは強くなっています。
 僕は顔が幼いのでよく「40代には見えない」と言われてそれがコンプレックスだったんですが、もうとことん若い感じでいってやろうかなと。逆に武器にできれば良いかなという方向転換ができるようになりましたね。
 たとえば僕はこれまで役者しかやったことなかったからそれ以外のことはできないと思っていました。でも、こういう仕事に就いてるからこそ発信できることもあるだろうと思うようになって。今後はそれを上手く活かしたいと思っています。

宇野 そうですね。今でこそ僕もこうしてスタッフも雇って10人くらいでやっていますが、もともとは個人でメディアを持って発信して世に出てきた人間なんです。やっぱりあたらしいことをやろうと思ったら、最初の最初は個人が発信していくということが大事だと思っています。

賀集 僕も、これくらいの歳になってきて初めてそういうことに目が向き始めてきていて。僕らは今まで基本的に舞台を用意してもらわないと活躍できませんでした。でも今はその舞台自体を自分たちで作れる時代ですから、やりたいことをやりたいように発信していきたいと思っています。今年はちょうどデビュー20周年にもなりますから、節目だと思って、できれば今年中にはなにかやりたいな、と思っています。

宇野 賀集さんが役者として「演じる」ということ以外に挑戦していくというお話、僕はすごく良いなと思いました。

賀集 ありがとうございます。昨年のコロナ禍で、みんな失ったものは多かったと思うんです。でもそれよりも上回るくらい縁もあったし、出会いもありました。それらを活かすも殺すも自分次第だと思っていて、今年は本当に新しいことを始めたいと思ってるんです。なので今までの賀集利樹じゃないものを出せると思うので、ぜひ皆さんも楽しみにしてもらえればなと思います。具体的には今年は僕と同じく、『仮面ライダーアギト』が20周年なので、津上翔一をより前面に出したいなと思っているんです。

宇野 僕、今回改めて『アギト』を観返してみて、今こそ世界には津上翔一くんが必要なんじゃないかと思ったんです。

賀集 彼は強いですからね。あの時代でも自給自足をしてる人間ってバカにされがちなキャラクターでしたけど、生きるために絶対必要なものを兼ね備えていたと思うんです。「隣に住んでいるお兄ちゃん」というのもヒーローとして新しかったんですが、「真には生きるために絶対必要なものを兼ね備えていたヒーロー」だったんだなと思うと、本当によくできたヒーローだったな、と思います。

宇野 そうなんですよ。たとえば今はインターネットでフェイクニュースや誹謗中傷といった問題がありますよね。翔一くんは、ああいうインターネットに翻弄されておかしくなっちゃうことは絶対ないと思うんです。声高らかに正義を叫んで、敵を倒すみたいな人も多くて、もうインターネット上に溢れているわけです。だからこそ今本当に必要なヒーローはむしろ、翔一くんだと思うんです。
 そこで賀集さんみたいなキャラクターが自分の好きなことを深掘りしていくという発信をすることって僕は希望になると思っています。僕はこういうキャラクターなので、やはり「お前は間違っている」「そんなんじゃダメだ」とか、「こうしなければならない」とか言っちゃうんです。だから、賀集さんのようなことは僕にはできないことだと思うんです。

賀集 なるほど、面白いですね。そういうふうに言われると確かにそうです。ありがとうございます。

[了]

この記事は宇野常寛が聞き手を、岡田久輝が撮影を、石堂実花が構成を担当し、2021年2月4日に公開しました。