おはようございます。橘宏樹です。ニューヨークは、11月24日にサンクス・ギビング・デイ(感謝祭)を迎えました。去年に続き今年もアメリカ人の友人宅にお招きいただき、大きな骨付きハムを分け合って楽しい時間を過ごしました。感謝祭の料理と言えば七面鳥がおなじみですが、ハムの流派も多いのだとか。

▲手製のサンクス・ギビング・ハム。グランベリーなど甘めのソースをかけて食べるのがセオリー。
▲アラビア文字の書かれたお皿がハムと餃子と団らんを待つ多文化な食卓。
▲手製のチョコチップ入りピーカンナッツ・パイ。使われたメープルシロップは庭で採れたものだそう。めちゃくちゃ美味しかった……
▲大きな家と薪の暖炉。これぞアメリカの冬って感じ。

 翌25日のブラック・フライデーのセールには人々が殺到し、ロックフェラーセンター前の有名な巨大クリスマスツリーはいそいそと装飾を始めています。クリスマス休暇の始まりまでは少し間があるものの、なんかもう、ニューヨーク市内からビジネスのやる気は感じられず、仕事納めに向かっている雰囲気です。

 さて、11月8日は中間選挙の投票日でした。全米で、連邦上院、下院、州知事、州議会等の選挙が一気に行われました。インフレへの不満が強いことやトランプ派の候補者が勢いづいていると見られていたことから、民主党は大敗するだろう、共和党(シンボルカラーは赤)が上下両院を席捲する「赤い波(Red Wave)」がやってくるだろう、との声がもっぱらの前評判でした。
 しかし、蓋を開けてみると、民主党が上院の過半数をギリギリながらもキープし、下院も共和党222に対し民主党213(過半数は218)と踏みとどまりました。大統領の党が負けやすい選挙にしては、バイデン民主党はかなり善戦したと言ってよいでしょう。
 日本でも、共和党が大勝しなかった原因分析(米最高裁が中絶権を認める判例を破棄したことへの反発と2020年大統領選挙結果を否定するトランプ派の行き過ぎた台頭に対する嫌悪感等)、上下両院内での両党の激しい拮抗、民主党内の世代交代(ペロシ下院議長退任)やプログレッシブ派の伸長、トランプ前大統領の2024年大統領選出馬表明や脱税疑惑への訴追、バイデン政権への支持率の低さ、バイデン大統領の次回大統領選不出馬との憶測、共和党内でのフロリダ州デサンティス知事の台頭とトランプ前大統領との闘争、などなど、主要論点については既に様々な論考が出回っております。
 時事的・政治的な分析はそれらに譲るとして、今号では、この度の中間選挙で、日本社会と比較して、僕が個人的に面白いな、重要だなと思ったポイントを3つ挙げたいと思います。それは、①選挙管理の危機、②分断を助長する予備選挙、③司法の政治化です。アメリカの選挙は、競争が苛烈過ぎるあまり、民主主義の土台をも破壊しかねない様相を呈しているように見えます。アメリカ民主主義の危機は「分断」からもう一歩深まって、制度それ自体の「瓦解」の域にまで踏み込みつつあるかもしれません。ある意味、危機の変質が見られると言ってもよいのかもしれません。一方で、アメリカ民主主義の希望というか、さすがのバランス感覚というか、行き過ぎを踏み止まらせる良心の底力のようなものも感じ取れます。何が起きているのか。なぜそうなっていくのか。僕なりの中間選挙の観察記録を書いてみたいと思います。

▲ニューヨーク・マラソンを走る参加者

① 選挙管理の危機

・「選挙管理」という論点の存在

 連載第2回でも触れましたが、今のアメリカでは「選挙の5W1H(①誰が(who)②なぜ(why)③いつ(when)④どこで(where)⑤何に(what)⑥どうやって(how)投票するのか)」のうち、「③いつ(when)」以外の全てのステージで政治闘争が繰り広げられています(逆に日本では、総理の解散権③いつ(when)が最も争点になるので対照的ですね。)。特に「⑥どうやって(how)投票するのか」に関して、郵便投票の是非をめぐる議論が過熱しています。アメリカの選挙は、支持者獲得競争の域を超え、選挙のインフラ部分にまで闘争の領域が広がっているのです。
 今回共和党が大勝できなかった最大の理由のひとつは、「選挙否定派」すなわち2020年の大統領選挙結果を否定する行き過ぎたトランプ派の台頭への嫌悪感にある、というのが、こちらの政治評論家の共通見解です。
 事実、2020年の大統領選挙の結果と中絶権の両方を否定する知事や候補がいる州の多くでは、民主党が勝利しました。例えば、知事選挙では、大統領選挙時の激戦区となるペンシルバニア州とアリゾナ州で、また選挙管理を行う州務長官を争う選挙でも、5州(ミネソタ、アリゾナ、ミシガン、ネバダ、ニューメキシコ)で、選挙否定派が敗北しました。野党に有利な中間選挙であるにもかかわらず、最重要地域の最重要ポジションを争う選挙で、敗北したかたちです。しかし、それでも、「選挙否定派」は各選挙で291人立候補したうち執筆時点(2023年1月13日)までに179人が当選しています。実に勝率6割を超えています。
 
 一方で、2020年大統領選挙の結果と中絶権を否定する知事等がいない州では、いつもの中間選挙と同様、与党民主党が議席を失いました。NY州がその好例です。NY州では、本来、民主党が圧倒的優勢な地域にもかかわらず、ホークル現知事がかなり苦戦しました。ホークル知事の得票率53%に対し、リー・ゼルディン共和党NY州知事候補は47%。この歴史的大接戦は、区割りの失敗、インフレと犯罪増加、穏健派ホークル知事の黒人等へのアピールがイマイチであったことなどが原因であるとされています。
ニューヨークでは「レッドウェーブ」共和党が下院4議席奪還(2022年11月11日付  Mashup)

2020年選挙否定派の当落を追うワシントンポストのページ。

・辞めていく選挙管理人

 「選挙否定派」の台頭に関して、特に由々しいと思われるのが、彼らの「攻撃」を受けて選挙管理委員会の公務員たちが続々と職を辞していっているということです。ボストン・グローブ誌の調査によれば、6州(マサチューセッツ及び激戦州のアリゾナ、ペンシルバニア、ミシガン、ウィスコンシン、ジョージア)の選挙管理事務局のトップの離職率は、2016年大統領選挙から2018年中間選挙の間では18%であったのが、2020年大統領選挙から2022年中間選挙の間では約30%に急上昇していたとのことでした。下級スタッフの離職率はさらに高そうだとのことです。彼らは「選挙否定派」による嫌がらせや脅迫、際限なく過剰な負担を強いる再集計要求、共和党系地方議員や判事等からの様々な圧力を受けていたそうです。同様に、ネバダ州やテキサス州でも、極右からの嫌がらせや脅しに苦しむ選挙管理人が辞任している報道が出ています。

AMERICA’S ELECTION WORKERS ARE LEAVING IN DROVES(2022年10月23日付 The Boston Globe)

 非常に卑怯で不当な攻撃だと思いますが、さらなる懸念点は、辞めた選挙管理スタッフのポジションに、今後どういう人たちが応募して、採用されていくか、という点ですよね。割の合わないブラックな仕事を、党派的な中立性を毅然と守れる人が引き受けてくれるかどうか……。「ある意図を持った人たち」が後釜に就職していく可能性は……。ちょっと心配なのはきっと僕だけではないのではないでしょうか……。

▲民主党が圧倒的に強いはずのニューヨーク州の知事選挙の投票分布。地域的な広がりで見ると真っ赤(共和党)でした。(CNNウェブサイトより)

・敗北を抱きしめて

 他方で、今回の中間選挙では「選挙否定派」は、軒並み敗北を受け入れている(アリゾナ州以外)というのは逆にちょっと面白いというか、希望が持てる点かなと思われました。敗者たちも、都合の悪い選挙結果を闇雲に否認していると、民主主義の国の政治家として白い目で見られてしまう空気を察知した、逆に言えば、そういう空気は保たれている、ということなのかもしれません。トランプ前大統領の煽りで勢いづいていた昨年ならばともかく、2年経って、潮目が変ってきているのでしょう。
 ここで想起されるのが、2014年のスコットランド独立投票です。当時英国留学中だった僕は、深夜のエジンバラのスコットランド議会周辺で、開票結果に歓声や落胆の声を挙げる群衆を夜通し見守っていました。面白かったのは、本当にギリギリで独立が否決された翌朝は、エジンバラはシーンと静まり返っていたことです。敗北を受け容れられない独立派の激しい怒号などはどこからも聞こえませんでした。スコットランド人の民主主義の成熟度が高いということなのかもしれませんけれど、なんとなく、僕は当時、街全体から、どこかしらホッとした気分を感じたものです。独立派も、本音の本音では、本当に独立してしまったらそれはそれで面倒なことになると理解していて、むしろ、振り上げた拳の落としどころを探していたのかなという印象を受けました。そういう意味では、ギリ敗北という結果は、英連邦政府にプレッシャーを与えることもできて、ちょうどよかったのかもしれません。
 選挙結果を受け容れられるか。受け容れられるのはなぜか。様々な点で、選挙結果否認運動がここまで盛り上がった、そして今後は盛り下がっていくだろう今のアメリカと2014年のスコットランド独立投票との比較には味わい深いものがありますね。
 トランプ派の言う通り、本当に不正や間違いがあったのかどうか、僕にはわかりません。誰にもわからないことかもしれません。日本では、投票用紙を選挙管理委員会の人が数え間違えるとか、故意に票を隠したりしているなどと疑っている人があんまりいませんよね。「選挙管理」という争点自体が存在していない日本。アメリカと実に対照的です。

▲フェリーから秋の摩天楼を眺める人々

② 分断を助長する予備選挙

・予備選挙で「良い候補者」を選べない?

 2点目は予備選挙の「過熱」がもたらす皮肉な結果についてです。アメリカの選挙には、本選での候補者を各党内で選ぶ「予備選挙」があるのが大きな特徴です。今回の中間選挙でも、各党の候補者は6月に(2022年は一部8月にも)行われた各党内の予備選挙で決まりました。
 人々の政党支持ははっきりしており、各選挙区でどちらの党が強いかは、ほとんど事前にわかっています。民主党(共和党)支持者が、本選で共和党(民主党)に投票することはかなり考えにくいですし、日本のように、大多数の無党派層の動向に左右されることもありません。かといって、所属政党への忠誠心も絶対ではありません。ここがポイントです。
 したがって、勝敗は、①自党内支持、すなわち、候補者が党内の支持をどのくらい広く集められるか、そして、②相手党内不支持、すなわち、相手党の支持者が、勝負を諦めたり、自党候補者が気に食わなかったりして、投票しなくなるか、が決め手になってきます。つまり、自党内動員力があり、相手党の動員力を削げる候補が「良い候補者」なのです。一般的には、選挙区が広い、高位の公職選挙ほど、①の観点(党内の左派から右派まで広く支持を集められること)は重要度を増します。また、ライバルの悪口を言うネガティブ・キャンペーンが有効なのは、もっぱら②の観点です。
 例えば今回のNY州知事選挙では、民主党支持者が圧倒的に多いNY市で、前回の中間選挙に比べて全体の投票率が大きく下がる一方(-31%)、共和党員の投票率は大きく上がっていました(+62%)。本連載第4回でも述べた、人口増加中の超正統派ユダヤ人に共和党支持が多いこととも繋がってきますね。リー・ゼルディン共和党NY州知事候補は「良い候補者」だったのかもしれません。
 予備選挙は、本来、①も②も満たすような最も「良い候補者」を選ぶための制度のはずです。しかし、近年は、競争が激化し過ぎるあまり、①も②も満たさない、むしろ逆行している本選候補者が増えている感があります。

・激化する予備選挙。エッジを求められる候補者。

 例えば今回、共和党内では、予備選挙の結果、多くの過激なトランプ派が共和党候補になりました。すると、本選では、①トランプ派を嫌う穏健な共和党員が本選で投票しなかったり、②対する民主党内でもトランプ派を当選させてはならないという危機感が高まって、多くの民主党員が、多少自分の気にくわない人物であっても、自党候補者に投票する選挙区が増えたりしました。その結果、共和党は大勝できませんでした。また、民主党内でも、穏健な執行部に対して不満を抱く、すなわち、より踏み込んだ格差是正を望むプログレッシブ派(急進派)が、18歳~29歳の支持を集めて予備選挙を勝ち抜き、本選でも当選者数を増やしました。
 そもそも、予備選挙は、同じ党内での競争なので、競争が激化すればするほど、他候補者との違いを誇張する必要が出てくるのが道理です。すると、現状への不満を鋭く声高に訴える過激な候補者ほど、資金や応援や注目を集めやすくなり、勝ちやすくなるという傾向が強くなっているようです。その裏返しとして、両党内の中道派(穏健派)が本選に進みにくくなってきています。
 なお、競争激化と選挙資金という点では、今回の中間選挙で政治広告に投じられた金額は史上最高の約100億ドルに達したとのことでした。これは2018年の中間選挙の2倍以上で、2020年大統領選の90億ドルすら上回りました。確かに、選挙運動期間中は、僕がYouTubeを見るたびに、ほぼ必ず共和党のリー・ゼルディンNY州知事候補の選挙広告が出てきて、民主党候補のホークル現知事を揶揄したりしていました。外国人アカウントの僕にまで広告を打つとは、本当に見境なくカネかけてるなぁと感じたものです。

▲リー・ゼルディン共和党NY知事候補の30秒の広告動画。YouTubeで、テレビで、何回見たことか……前半では民主党をディスってます。

・誰が「分断」の橋渡しをするのか。

 なので、自然と、本選では、民主党左派(プログレッシブ派)と共和党右派(トランプ派)の両極が激突する形が多くなり、相容れなさ過ぎて議論も噛み合わず、競争もヒートアップしがちになりますし、結果として、議会内でも民主党左派と共和党右派が増えます。共和党内での右派の勢力拡大はよく報道されますが、実は、民主党内でも左派が勢力を伸ばしていることにも注目が必要でしょう。昨年、民主党内でプログレッシブ派議員は100人に達し、中道派議員数(97人)を初めて上回りました。その上、ペロシ下院議長の執行部退任に象徴されるように、世代交代も進んでいます。ざっくり言えば、ベテランの穏健派議員が退出し、若いプログレッシブ派議員が増えている状況なのです。
 両党の穏健派が少なくなることは、両党内そして両党間の調整能力が弱まることに繋がります。党内・党間調整は、個別具体的な政策論点ごとに各議員は複雑な動きを見せるので一概には描写できないのですが、基本的には、民主党左派と共和党右派の間の方が、両党の穏健派同士より隔たりが大きい分、党派間調整が困難になることは想像に難くないですよね。
 折しも、上院も下院も、両党が僅差で拮抗しているところ、重要法案を通していく上では、党派間の調整が整わないと国が動いていきません。「分断」が嘆かれている今のアメリカにこそ期待される合意形成力というか、「分断」を橋渡しする政治の本来の機能がますます低下しているように見えます。そしてその原因は、皮肉にも、分断をなんとかできる「良い候補者」を選ぶための予備選挙のヒートアップに求められそうです。党内競争が激しくなればなるほど、ますます分断を橋渡しできなくなっていく。悪循環です。

 日本には米国のような予備選挙がないので、実に新鮮に映ります。超絶複雑な米国政治を少しシンプルに書き過ぎておりますが、日記ということでご寛恕ください。

▲ニューヨーク・ファッションウィークの様子。観覧者の服装もさすが個性的……

③ 政治化する司法 

 最後は司法の問題です。アメリカに来て思うのは、つくづく司法は、政治の一部だなということです。今回の中間選挙では、選挙否定と並ぶ最大の争点は、中絶問題でした。米国最高裁判所は今年6月24日、女性の人工妊娠中絶権を認めた1973年の「ロー対ウェイド判決」を約50年ぶりに破棄。これにより人工中絶を認めるか否かは、各州に委ねられることになりました。カトリック系や共和党右派は中絶に反対。民主党は中絶権を肯定。銃規制においても、保守派の好む、銃の携帯の権利を広げる判決が出されました。

米最高裁、銃携帯の権利を広げる判決 上院は規制強化の法案可決(2022年6月24日 BBC)

・大統領と上院が最高裁を制する

 現在、最高裁判事9名の内訳は、保守派判事6人、リベラル派判事3人というバランスです。保守派の文化的価値観が判決に反映されやすい状況になっています。そして、ポイントは、連邦裁判所の判事に欠員が生じた際には、大統領が指名し、連邦議会上院が承認した人物が後任となる、という人事制度にあります。実際、2年前までは、保守派5人、リベラル派4人とほぼ拮抗していたのですが、有名リベラル派判事の死去に伴い、トランプ大統領(当時)は、保守派の判事を送り込み、6対3と保守派の圧倒的優位を確保することに成功しました。

トランプ氏、米連邦最高裁判事に保守派エイミー・コーニー・バレット判事を指名(2020年9月27日 BBC)

 ですから、民主党にとって、今回、上院過半数を獲れたことは非常に大きいわけです。民主党政権は今後2年で全国各州の約100名の連邦判事の任命を計画していると言われています。スムーズにリベラル派の判事をたくさん送り込むことができるわけです。そうして、中長期的に、選挙区割りの決定であるとか、中絶や銃規制、人種差別等のリベラル派の問題意識に沿う判決を出して社会を望む方向にリードしていけます。
 もちろん、裁判所ですので、保守派だから、リベラル派だからと、判決が恣意的・党派的に決まるわけではなく、法理論に基づいた議論を経て判決が下されるわけで、裁判所内ではきっと、文化的価値観の違いをめぐる法理論による代理戦争が繰り広げられているのだろうと想像します。しかし、最後はきっと多数決をしているのでしょうし、判決を見る限り、やはり、この判事の人事バランスが大きく働いていることは否めない印象です。

▲感謝祭のパレード。宙を舞うバルーン。

・検察の政治利用?

 また、検察に至っては、本当にもう露骨に政治利用されていると言ってもよいんじゃないかと思います。現在、トランプ前大統領は、退任後も重要機密書類を自宅に保管していたことが発覚し、これが違法行為にあたるのではないかと、捜査を受けています。さらに、これとは別に、司法省は昨年1月6日の連邦議会襲撃事件や、2020年大統領選の結果を覆そうとする動きについて、広範な刑事捜査を続けています。
 そしてこの度、民主党政権は、トランプ氏の2024年大統領選挙への出馬表明にかぶせるように、凄腕特別検察官を任命し、トランプ氏刑事訴追に向けた捜査を強化していくと表明しました。
 もちろん、トランプ氏が違法なことをしていたら法の裁きを受けなくてはならないでしょう。しかし、誰が見ても、民主党は、何が何でもトランプ氏にケチをつけて出馬不可能にしようとしているように見えますし、それは民主党政権に利するわけで、報道官が何と言っていようが、全国民もそのように受け止めていると言ってよいでしょう。

トランプ氏捜査に特別検察官を任命、米司法省 (2022年11月19日 BBC)

 日本では三権分立ということで、裁判所は国会と内閣に対し中立・独立を保つこととされています。最高裁判決が衆議院選挙の争点になったり、前政権のトップを現政権が訴追するべく検察を駆り立てたりといったことは、日本ではあんまり見かけないですよね。個人的には、司法には当然、政治的に中立・独立・公正であってほしいので、権力闘争の強い影響下にあるアメリカ司法の状況には、正直、ちょっとドン引きしてしまいます。一方で、多様な民族、多様な価値観がひしめくアメリカにおいては、価値観闘争は、裁判所内に持ち込まれざるを得ず、最終的には、力でしか解決できないのかもしれないなとの諦観も生まれるところです。

まとめ

 というわけで、今回は、2022年中間選挙に寄せて、個人的に面白いと思った点を3つ述べてみましたが、いかがでしたでしょうか。①公正な選挙運営自体が危機に瀕していること、②予備選挙の激化が分断を助長していること、③司法と政治が影響を与え合う程度が深化していること。これらは政治広告費の投入額に顕れる政治闘争のエスカレーションがもたらしています。「分断」からさらに民主主義の危機を深刻化させ、公正で中立な選挙運営や三権分立といった、民主主義制度の根幹までをも毀損しつつあるように見えました。一方で、選挙否定派も中間選挙での敗北を受け容れたりと、民主主義国の良心の踏み止まりもまた観測されました。つくづく、なんとも激しく、エネルギーに溢れた国であるなと、ため息が出ます……。

(了)

この記事は、PLANETSのメルマガで2022年12月2日に配信した同名連載をリニューアルしたものです。あらためて、2023年1月19日に公開しました。
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