おはようございます。橘宏樹です。6月のニューヨークは異常気象から始まりました。カナダでの山火事の煙が流れ込んできて、空がオレンジ色に染まりました。CNNによればこの時の大気汚染の程度は瞬間的ながら世界最悪だったとのことです。太陽の翳り方からして、世紀末というか、地獄というか、火星というか、なんとも現実感のない光景が広がっていました。空気もはっきりと焦げ臭くて、煤を吸い込んでしまう感覚が明確に感じられ、久しぶりにマスクをして外出しました。数日間外出を控えた方も多かったと思います。うちも9ヵ月の赤ちゃんの散歩は控えました。

NY市の大気汚染、世界最悪級に 米北東部を覆うカナダ森林火災の煙(2023年6月7日 CNN)

▲6月6日のニューヨーク市内の様子。セピア色化などの加工はしてません……

 さて、ニューヨーク界隈のイノベーションシーンについて前編中編と2回にわたってお話ししてきたところですが、諸事情ありまして、後編に入る前に、ニューヨーク名物の「パレード」についてお話ししてみたいと思います。

 ニューヨークではよく、目抜き通りの交通を止めて、一定の距離を人々が練り歩く、様々な「パレード」が催されます。目的も参加者も色々です。ニューヨークの日系人コミュニティも「ジャパン・パレード」というパレードを催行しています。パレードはだいたい気候の良い3月から6月にかけて行われます。たいてい先頭はニューヨーク市警の騎馬警察が務め、そして消防隊と続いたあとは「グランド・マーシャル」と呼ばれる、そのパレードの象徴となる人物が現れます。グランド・マーシャルがどういう人物なのかは、パレードの性質を理解する上で重要なポイントになります。また、「フロート」と呼ばれる飾り立てられた山車を伴うグループも多く、壇上では歌や踊り、DJのパフォーマンスなどが繰り広げられ、パレードを盛り上げています。ちなみにフロートは、たいていスポンサーが400万円~600万円くらいの寄付を行って出すようなのですが、ここだけの話、日本の高校の文化祭でももっとマシなもの出てるだろうと思うような、実費がかなり抑えられてる感の強い造作のものも多いです……。差益を出すためでしょうね。

 パレードはそれぞれ、あくまで(毎年恒例の)お祭りであって、いわゆるデモとは違い政府等に対する強い要求を行っているわけではないのですが、ものによっては、より一層政治的な性質を帯びている場合もあります。ニューヨークの人々から支持を得られやすいよう、楽し気でまろやかな形をとって、政治的主張を行っているわけです。

 そこで今号では、ジャパン・パレードを含むニューヨークの有名なパレードを5つほど取り上げて、時期・目的・場所・グランドマーシャル・主催者・参加者・特徴等についてざっくり比較してみたいと思います。開催月順にお話ししていきます。

1 セント・パトリック・ディ・パレード

 セント・パトリック・ディ・パレードは、毎年3月17日、アイルランドの文化と伝統を祝い、アイルランドの守護聖人である聖パトリックを讃えることを目的として行われるパレードです。四つ葉のクローバーが象徴で、緑がテーマカラーです。街中にバグパイプの音が響き渡ります。2023年は、ご存知、マンハッタン最高の目抜き通り五番街の 44 ストリートから79ストリートを練り歩いていました。当然、50ストリートと51ストリートの間にあるセント・パトリック大聖堂の前は通りつつ、市街地からセントラル・パークのすぐ東を抜けていきます。第一回は1762年で、アメリカの独立よりも14年早いという、かなり長い伝統のあるパレードです。ニューヨーク市のアイルランド人コミュニティが主催しています。グランド・マーシャルは、著名なアイルランド系アメリカ人か、アイルランド系アメリカ人コミュニティの功労者であることが多いです。

ニューヨークのセント・パトリック・デイ・パレード2023のウェブサイト

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▲セント・パトリックデイ・パレードの様子。パレード自体のテイストは割とミリタリー色強め。
▲市中のアイリッシュパブの様子。写真提供@toyaku

 

▲セント・パトリックデイ・パレード2023のニュース動画(CBS New York)

 このパレードの特徴は、思い思いの恰好ながらも、アイルランド国旗と四つ葉のクローバーをアクセントに使いつつ、全てが「緑一色」に染め上がっていることです。行進する集団の多くも、アイリッシュな民族衣装や軍服でビシッと揃えていて、統一感が半端ないです。しかも、会場周辺だけではなく、この日はほぼマンハッタン全体が緑色になると言っても過言ではありません。パレードの参加者や観覧者の服装のみならず、会場から遠く離れた場所でも、緑色の恰好をして歩いている人々を多く見かけます。また、アイリッシュパブは当然として、街中のあらゆるお店が、緑色に飾り立て、割引や特別メニューなどを出したりします。さすがニューヨーク最古のパレードという浸透ぶりです。同じ緑色でも、街中の緑は、華やかで楽し気な明るい緑なのに比べて、パレードしている人々は制服の髭のおじさんが多めで、いかつく渋い深緑なテイストだったりするギャップも個人的にはツボです。いずれにせよ、この日の緑の持つインパクトはあまりにも大きく、ニューヨークで緑と言えば、聖パトリックであり、アイルランドである、と連想させるチカラはかなり大きいと言えます。ニューヨークにおけるアイルランド人移民の誇りがしっかりと込められ、顕示されています。そして、3月という開催のタイミングも絶妙で、パレ―ド当日はまだまだ寒くはあっても、「ああニューヨークもやっと長い冬も終わり、そろそろ春がやってくるのだな」という予感をニューヨーカーに与える、芽吹きの緑という風情も感じさせてくれます。

2 ジャパン・パレード

 我らが日本人コミュニティもニューヨークでパレードを実施しています。事の起こりは、幕末の開国後、万延元年(1860年)に遣米使節団の侍たちがブロードウェイを練り歩いたことにまで遡ります。当時沿道には50万人もの人が集まり、空前と言われる大歓迎を受けたとのことで、当時のニューヨーク・タイムズにも「市の歴史で最も目新しく華々しいイヴェントの一つ」だと評されたとのことです。

▲1860年、ブロードウェイを練り歩く遣米使節団の侍たちの行列。
窓から歓迎の日本国旗が振られています。
在ニューヨーク日本国総領事館ウェブサイトより)

 それから、約160年。コロナ前までも例年ジャパン・デイという日本食屋台の出るお祭りがセントラル・パーク内で行われてはいましたが、パレードは行われてこなかったところ、遂に、昨年の5月14日、第1回ジャパン・パレードが実現しました。グランド・マーシャルは、ジョージ・タケイ氏という「スタートレック」に出演していた俳優で、LGBTQ活動家でもある老紳士が務めました。意外と言っては失礼ですが、2万人が集まったとされる沿道の反応を見る限り、タケイ氏はニューヨークの若い人の間でも大変な知名度と人気を誇っていました。
 そして、今年もやるのかな、やらないのかな、と色々な憶測が飛び交った末に、2023年5月13日、第2回ジャパン・パレードが催行されました。今年のグランド・マーシャルは、1992年アルベールビル五輪のフィギュアスケート女子シングル金メダリストのクリスティ―・ヤマグチ氏でした。また今年はアダムズ市長もマーチングに参加しました。沿道には昨年の2倍以上となる5万人が集まりパレードを楽しんでいました。

▲2023年は奄美群島の本土復帰70周年。NY奄美会はパレードで島唄や踊りを披露。

 僕が所属するNPO法人ZESDAも、奄美大島でプロジェクトを行っている関係から、ニューヨーク奄美会のパレード参加を少しだけサポートしました。

(プレスリリース)奄美ゆかりの方々へ【メッセージ寄付広告募集!】奄美の魅力を世界に発信!あなたも「しまっちゅ」の「ジャパン・パレード2023」参加を応援しよう!

▲ウクライナの方々も参加(2023年)
▲セーラームーンも参加(2022年)
▲大企業のフロート。おカネかかってます。
▲県人会はお神輿を披露(2023年)
▲空手の演舞。みんなが固唾を飲んで見守ります。

 ジャパン・パレ―ドの特徴は、一つの国のパレードとは思えないほどの「多様性」です。空手や剣道の演舞、コーラス団、高校生のブラスバンド、社員が手を振る企業フロート、アニメキャラクター(昨年はセーラームーン、今年はナルトがやってきました。)お神輿、花魁、民謡と踊りなどなど、日本文化のポップカルチャーから伝統芸能まで、本当に幅広いです。裏を返すと、セント・パトリック・ディ・パレードの「緑」のような象徴的なカラーや圧倒的な統一感などは見受けられません。仮にシンボルカラーを設けるとしたら、桜のピンクがよいでしょうか。

 また、沿道から横道に入ると、ラーメンや丼など日本食の出店が並び、空前の超満員でした。すごい勢いで完売してしまったようで、下の写真に写っている人々のうち、結局何パーセントがご飯にありつけたのでしょう。またマンハッタン内の日本食レストランとも連携して特別キャンペーンを展開していました。世界遺産でもある和食の魅力を最大限動員したイベントになっています。

▲ジャパン・パレードの日のJapan Fesの様子。こんな人だかり、ニューヨークで見たことないです。(Japan Fesウェブサイトより)

 そして、ジャパン・パレードには、政治性やメッセージ性がほぼないこともまた、大きな特徴でしょう。強いて言えば、日米同盟の絆のアピールくらいでしょうか。以下に述べる他のパレードに比べれば至極平和です。ニューヨークでは、そんな平和なパレードは逆に珍しいと思います。それだけに、見る側もリラックスして接することができる雰囲気があるような気もします。この、生き馬の目を抜く世界(ニューヨーク)にあって、想像を絶するのどかさを(なぜか!)維持できている感じ。パレードの人気のみならず、日本がアメリカや世界から概して好感を持たれている(または、なめられ失望されている?)理由にも通じるところがあるのではないかなと思います。

ジャパンパレード ニューヨーク 2023 ハイライト!日本最高!

▲僕も参加しているNPO法人ZESDAが研究・イノベーション学会と共著で書籍「新版プロデューサーシップのすすめ」を出版しました。「和」を尊ぶ日本らしいイノベーション手法としての「プロデュース」について掘り下げています。以前PLANETSでの連載を取りまとめて出版した「プロデューサーシップのすすめ」を大幅リニューアルしたものです。幅広い分野でのプロデュース事例も豊富に所収しています。ぜひお手に取ってみてくださいませ。

3 AAPIパレード

 ニューヨークには中国・韓国をはじめアジア系移民が大勢住んでいます。これらに太平洋諸島出身の方々を加えて「アジア・太平洋諸島系アメリカ人(AAPI)」と総称します。国や民族ごとだとマイノリティになってしまう人々が集合体を形成して利益集団化しているわけです。毎年5月は、1843年5月7日に最初の日本人移民が米国に到着し、1869 年5月10日に大陸横断鉄道が完成したその大部分は中国人移民だったことにちなんで、AAPI月間となっています。なので5月にはアジア・太平洋関係の芸術・文化関連イベントがニューヨーク市内のそこかしこで開催されます。もちろんAAPIパレードも5月に行われます。日本もAAPIの一員ですから、ジャパン・パレードも5月に開催されていることは、平仄が合っていますね。

▲AAPIパレード2023に参加するアダムズ市長(市長室twitterより)赤いたすきを掛けたグランド・マーシャル「達」と並んで行進しています。

 ご存知の方も多いと思いますが、コロナ禍以降、ニューヨークでは、「アジアン・ヘイト・クライム」と呼ばれる、AAPIに対する、暴力やいじめが大きな問題となっています。マンハッタンのど真ん中、真昼間にもかかわらず、地下鉄の線路に突き落とされたり、路上でいきなり殴られたりといった事件が大変多発しています。僕たちも日常かなり気を使って暮らしているところです。合衆国も州も市も警察を増員したり、精神異常者のケアに予算を割いたりと対策を打っているところではあります。

 こうした状況を受け、AAPIが団結して、差別を止めてくれ、私たちも立派なニューヨーク市民なのだ、と声を上げるべく始まったのが、AAPIパレードです。2022年が第一回で今年が第二回目です。五番街の44通りから55通りまで、南から北に向かって、文字通りマンハッタンのど真ん中を練り歩いていました。

▲2023年 AAPI ヘリテージ・パレードの様子。ベトナム系、フィリピン系などアジア各国ルーツのフロート。それぞれの文化的個性があらわれています。 (Better Chinatown USA ウェブサイトより)

 また、ニューヨーク州のAAPI人口は2010 年の 1,579,494 人から 2020 年には 2,173,719 人へと、 37.6%増加しました。また、2020年のニューヨーク州の総人口に占めるAAPIの割合は10.8%で、2010年の8.2%からジワリと増加しています。さらに、ニューヨーク市にいたってはなんと 17.3%(1,525,851人)がAAPIです。当然、政治的にも一大勢力を築いています。連邦下院議員をはじめ州や市の議員にはアジア系が多数存在しています(なお、日系人の議員等はニューヨーク市内にはいません)。特に中国系・台湾系・韓国系はブルックリンを中心に集住していて、ついに人口の過半数がアジア系となり、立候補者もほとんどがアジア系という選挙区(ニューヨーク市議会)まで出現しました。前ブルックリン区長であるアダムズ現ニューヨーク市長にとっては、到底無視できる勢力ではありません。

 AAPIの主催団体は、Better Chinatown USA という、文字通り、中国系アメリカ人の団体です。また、AAPIパレードのグランド・マーシャルは複数います。上記の写真でアダムズ市長とともに歩いているたすきを掛けている人々です。ちょっと調べたところでは、それぞれ誰なのかはわからなかったのですが、各エスニシティのコミュニティを代表している人であろうことは間違いないでしょう。誰か1人を立てたりしなかったところに、民族の多様性の尊重を訴える趣旨が込められていると言ってよいでしょう。


▲AAPIパレード2023のニュース動画

4 イスラエル・パレード

 毎年6月に行われるイスラエル・パレードは、AAPIパレード以上に「政治的」です。今年は特別な事情もあって、一層バチバチしていました……。

▲ホークル知事(左手を挙げた白いジャケットの女性)も参加。横にはニューヨーク州選出の連邦下院議員はじめ有力政治家がズラリ。(JCRC-NY Celebrate Israel Paradeのtwitterより)
▲子供の参加が特に多いパレードです。(JCRC-NY Celebrate Israel Paradeのtwitterより)

 イスラエル・パレードは、ニューヨークのユダヤ人たちが、イスラエル国家の存続を訴えサポートの意志を表明する目的で行われ、1965年から約70年続いています。今年は6月4日に開催され、イスラエル建国75周年の祝賀の意味も込められていました。今年はセントラル・パークの東側、57番通りから73番通りまで南から北に歩いていました。

 毎年約4万人もの人々が練り歩きに参加しているとのことですが、パレードはイスラエルの国旗で埋め尽くされ、どのグループもほとんどみんな同じような青色のTシャツを着ています。パフォーマンスを行うグループは少なく、フロートの上のDJやミュージシャンの演奏に合わせて時々踊りながら、基本的には歩くだけのグループが多く、ジャパン・パレードに比べると、実に「一様」です。また、さすが子だくさんのユダヤ人だけあって、小学生から高校生くらいまで、非常にたくさんの子供たちが参加しているのが、印象的です。

 主催団体はJCRC-NYというニューヨークにたくさんあるユダヤ系団体を取りまとめるアンブレラ組織で、政治的影響力が非常に強い団体です。パレードには、アダムズ市長のみならずホークル知事も参加します。今年のグランド・マーシャルは、ハーレー・リップマン氏という、米国最大の IT コンサルティング・人材派遣系会社の一つGenesis10 の創設者兼 CEOでした。要は大富豪です。パレードにも莫大な金額を寄付していることでしょう。Foxによる生中継も行われます。さすがはメディアを制するユダヤといったところです。

 以前、本連載で、ユダヤ・コミュニティには、左派から右派まで色々な人々がいることについて述べましたが、今年のイスラエル・パレードでは見た目の一様さとは裏腹の、ユダヤ・コミュニティの「多様性」が面白いほどはっきりと見て取れました。

「現役官僚のニューヨーク駐在日記」第4回「あなたの持ちものを欲しがる人に売ることをビジネスとは言わない(前編)」

 まず、イスラエル・パレードは、イスラエル国家を祝福するのが目的なのですが、ユダヤ教の超正統派の人々は、メシア(救世主)が現れないと真のユダヤ国家は実現できない、しかし、まだメシアは現れていない、だから現在のイスラエル国家は偽物であり、認められない、という立場を取っています。なので、沿道の片側のある場所で横断幕やプラカードを立てて、パレードに対し、「イスラエルはユダヤ国家ではない」と、しっかりと抗議しています。ちなみに、彼らは大声で怒鳴ったりはせず、粛然と居並んで淡々と反対の態度を示すのみです。

▲イスラエル・パレードに「イスラエルはユダヤ国家ではない」と抗議する超正統派の人々

 他方で、今年は特別な事情から、パレードは左派からの抗議にもさらされていました。現在、イスラエル国内では、極右政権が、最高裁の判断を国会が覆せるようにするなどの司法制度改革案を通そうとしています。これに対し、民主主義の根幹である三権分立・司法の独立を脅かすものであるとして、大規模な抗議デモが続いたり、軍の予備役の一部は任務を拒んだりと、大揉めに揉めています。アメリカのユダヤ団体や有識者らも、いつもは中東におけるイスラエルの存続のサポートに徹するのみで、イスラエル内政については口出ししないのが常なのですが、こればかりは、民主主義の国アメリカの国民として看過できないようで、各種メディアで批判が展開されています。

イスラエル国会、司法制度改革で紛糾 (2023年6月15日、KWPニュース)

 そんな状況下での今年のイスラエル・パレードに、イスラエル本国からは、複数の国会議員らとともに、なんと司法制度改革を押し進める張本人であるロズマン法相が練り歩きに参加していました。これに対して、左派の人々が、超正統派が陣取る沿道の逆の沿道を、拡声器を持って、ロズマン法相や国会議員らの練り歩きグループにずっと並走しながら、「司法制度改革は民主主義の危機だ、直ちに止めろ」「植民地でのパレスチナ人いじめは恥だ。すぐ止めろ」と、訴えかけていました。少しうがった見方かもしれませんが、法相らの前を行くフロート上のスピーカーからは大音声の音楽が流されていたのですが、それは、こうした拡声器の声をかき消すためだったのかな、などと沿道から見ていて思いました。

▲「Shame(恥を知れ)」「イスラエル国家は愛するが現政権は支持しない」などのプラカードを持って沿道でパレードに並走する人々。

 さらには、アジアン・ヘイト・クレイム以上に長い歴史のある、反ユダヤ主義の人種差別の人たち(髭もじゃで服装の汚い白人中高年ばかり……)もまた、拡声器を持って、パレードに並行しながら、汚い言葉で罵声を浴びせたりしているのも何度も見かけました。なかにはパレードに割って入ろうとする人もいて警備員に咎められたりしていました。

 文字通り、右から左から、紛糾していて大変です……。イスラエル・パレードに比べたら、ほんと、ジャパン・パレードはなんて平和なんだろう、とつくづく思います。


▲イスラエル・パレード2023のニュース動画

5 プライド・パレード

 最近日本でもLGBT法案をめぐって大きな議論が行われていましたが、ニューヨークは性的マイノリティの人権尊重に関しては世界最先端の都市です(最近は、LGBTQIA+とさらにアルファベットが増えてきています。それぞれの文字の意味についてはこちらをご参考ください)。

 ニューヨークでは毎年「NYCプライド」という性的マイノリティを祝福するパレードが行われます。この種のパレードとしては世界最大級です。行進には数万人が参加、沿道の見物客は数百万人に上ります。特に2019年のプライドパレードは50周年記念ということで参加者は15万人、沿道の見物客は400万人にのぼったとのことです。今年のジャパン・パレードは沿道の見物客が5万人ですから、異次元ですね……。まあ、まだ2回目ですし……。

 また、練り歩く距離も長いです。これまで紹介した4つのパレードはだいたい南北20ブロック足らず1Kmちょいの直線を歩くくらいですが、NYCプライドはその2倍の距離を、マンハッタン南部を中心に、縦にも横にも歩きます。主催者はNPO法人、グランドマーシャルは各界で活躍する著名な性的マイノリティの方々が務めています。民主党の強いニューヨークですし、これだけの規模のイベントですから、州知事も市長もパレードに参加しています。

▲MYCプライド2023のパレードのコース

 プライド・パレードの起源は、1969年6月28日の早朝、マンハッタン南部のグリニッジ・ビレッジにあるゲイ・バー「ストーンウォール・イン」が警察に襲撃されたことを受けて、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー(LGBT)の人々が暴動を起こしたことに遡ります。その後、デモ行進も行われるなど、抗議活動が激しさを増していくなか、その一環として、毎年6月はプライド月間とされパレードを行うことになりました。このように、なれそめにおいて、当地の権力への反発、特にニューヨーク市警察と深い遺恨がある点は他のパレードとの違いとして際立っています。2021年には、NYCプライドの主催者が、2025年までは制服を着た警察官のパレード行進を禁止すると発表するほどです(2025年に禁止を再検討するとのこと)。

▲NYCプライド2023のグランドマーシャルを発表する事務局ウェブサイト

 また、マンハッタンのそこかしこでは、6月に限らず、わが社は性的マイノリティの人権を尊重しています、といったメッセージを発信する企業広告も非常に頻繁に見かけます。性的マイノリティの尊重は、近年はもはや、「流行(ファッション)」になっていると言ってもよいでしょう。そうしたなかで、逆に「偽プライド」問題も指摘されています。この、やたらめったら、レインボーな広告については、欺瞞やごまかし(「ピンクウォッシング」と呼ばれます)も入ってるのじゃないか? という批判があるのです。レインボー広告を打っているくせに、企業行動が伴っていなかったり、それどころか性的マイノリティ差別が社内で行われていたり、性的マイノリティ差別をしているイスラム教徒のパレスチナ人よりも、イスラエルの方が進んでいると述べて、植民地政策での人権侵害をごまかしたり、といった例があります。

【参考記事】プライド月間に考えたい「ピンクウォッシング」とは?(GQ)

▲NYCプライドパレード2022の様子。炎天下もあって、とにかくものすごい熱気とエネルギー。2023年は6月26日に開催。

 ニューヨーク州は全米で最初に同性婚を認めるなど、性的マイノリティの人権保護においてはかなり進んでいます。もとは暴動でありデモであったものが、50年を経て、ファッションになり、それゆえに欺瞞も生まれ、それでも、この運動のうねりはどんどん巨大化しています。今年のプライド・パレードはどういうものになるでしょうか。楽しみです。


▲プライドパレード2022のニュース動画

6 まとめ

 というわけで、駆け足でしたが、ざっくりと5つのパレードを比較してみました。いかがでしたでしょうか。一口にパレードと言っても、全然違いますよね。楽し気に練り歩く背景には、権力への反抗、差別主義者との闘争、国際政治、選挙の論理、などなど、生々しいドロドロが渦巻いているパレードばかりです。簡単に解決しない問題との闘いを諦めない人々の、本気の気合、譲れない思いが込められています。パレードとは本質的には咆哮であり慟哭なのです。それらに比して、我らがジャパン・パレードの醸し出している、突出した無邪気さというかピュアさには、あらためて、非常に驚きを覚えます。もちろん、そうした平和な雰囲気自体は、なんら悪いことではないと思います。それ自体がユニークさと言えるでしょう。また、当地日系人にも、戦時中の日系人強制収容、人種差別や貧困など、並々ならぬ苦労をしながら苛烈な日々を生き抜いてこられた方々は多く、日系人の米軍退役者など、強い感慨を抱いてジャパン・パレードに参加している方々も多いです。彼らの思いも受け継ぎながら、これから回を重ねていく中で、ジャパン・パレードはどのような変化を遂げていくのでしょうか。とても楽しみです。

(了)

この記事は、PLANETSのメルマガで2023年6月21日、27日に配信した同名連載をリニューアルしたものです。あらためて、2023年10月5日に公開しました。
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