カタールとサウジ、UAE、バーレーン等との国交断交について

 2017年6月5日、サウジアラビア、UAE、バハレーン(バーレーン)、エジプトの4カ国が相次いでカタールに対しての外交関係を断絶する、と発表しました。その結果、いくつかの国とカタール間で国交断絶か外交レベルの格下げが次々と行われました。既に著名な先生方や知識人の方々が筆を尽くし話されているので、誰がどうして、どうなったかという詳しい話よりも、国交断絶について中東についての基礎知識がなくてもわかる、あれ、カタールってどこだっけという方にでもわかりやすいストーリーで語れればと思います。
(*本当に遡れば、現カタール首長(元首のこと)のお父様の即位時に起きたゴタゴタについてから書かなければならないことなど歴史を語る必要がありますが、割愛します)

▲カタールサッカースタジアム建築予定地の様子

 以下、まず目を瞑って『魁!男塾』の内容を思い出してから読んでください。

 たとえ話で言うならば……(※フィクションです。)
 とある世界にある「王立!湾岸アラブ高校」に、サウジアラビアとカタールとバーレーンとUAEがいました。彼らは同じ学校のメンバーとして仲良くつるんでいましたが、最近カタールが、湾岸アラブ高校と抗争中である他校、イラン高校や多数の高校のメンバーで構成されるムスリム同胞団のメンバーたちとこっそりと、時には堂々と遊んでいる姿が目につきました。このことを湾岸アラブ高校の他メンバーは許せませんでした。それにサウジアラビアやUAEはカタールに対して過去、カタールの跡継ぎ襲名問題で因縁があり、学内でトラブルがあるとお互いメンチを切っていました。

▲中東湾岸諸国の地図。カタールは、アラビア半島からペルシャ湾に突き出た、秋田県くらいの広さのさらなる半島国。陸地の国境線は南のサウジアラビアとしか接しておらず、いかにも揉めると厄介な地理。(参考

 そんな時、海の向こうの巨大なメリケン高校の番長、トランプが湾岸アラブ高校までやってきました。湾岸アラブ高校メンバーたちにトランプ番長は

トランプ「俺たち仲良くやっていこうぜ、あと気に食わない相手は一緒に倒していこうぜ、イラン高校の連中とか……な? ほら、サウジさんたちに武器売るよ! 鉄パイプと釘バット。(*大口の武器輸出合意)」

▲サウジアラビアを訪問するトランプ氏

と、いくつかの高校を名指しにして湾岸アラブ高校と打倒宣言をしました。ですが、打倒目標の中にカタールが仲良くしている高校が入っていることで、カタールは微妙な立場に置かれました。さらにこの時期カタールが

カタール「他校の強い生徒とつるんでなにが悪い? あいつらだって悪いやつじゃないさ! それにメリケン高校の今後なんかわかったものじゃないぜ!」

と発言したという噂が湾岸アラブ高校内で出てきました。メリケン高校と力を合わせて結束し、他校を打倒していこう、と皆で宣言したばかりの王立湾岸アラブ高校のメンバーとしては言ってはいけない発言でした。それに対してサウジアラビアが

サウジ「湾岸高校全員で足並み揃えているのに何言ってるの? 潰れたデーツ(ナツメヤシ)みてーにしてくれんゾ……?」

と激怒してカタールになぜそんなこと言ったのかを問い詰めますが、カタールは

カタール「いやいや、そんなこと言ってない! 俺の発言じゃない! これは何かの陰謀だ!(*QNA:Qatar News Agencyに対するハッキング疑惑)」

 と必死に否定します。しかし、サウジアラビアは様々な証拠を突きつけると同時にカタールの言い分を信じず、言い訳も聞こうとしません。(*アルジャジーラチャンネルの遮断等)

さらにサウジアラビアは同じ湾岸アラブ高校のメンバーと示し合わせて

サウジ「俺は最近カタールが他校の連中と仲良くしすぎているのはもう我慢できないわ! サウジをナメるんじゃねーゾ……カタールゥ……」

と、カタールに対して今後湾岸アラブ高校のメンバーは

・カタールと口もきかない(*外交断交)
・カタールの席にみんな行かない、来たら追い返す(*国外退去)
・カタールとお昼のお弁当のおかずを交換しない(*貿易の停止)
・カタールへの同情発言をすると掃除用具箱に閉じ込める(*カタールへの同情発言への禁固刑)
・カタールのいつもの通学路を封鎖する(領空通過の禁止)

などと、湾岸アラブ高校内で徹底的に無視することにしました。

▲領空一覧 (©IVAO)
▲領空通過禁止後のカタール航空航路が断交国上空を飛べない様子
▲カタールのハマド国際空港

 最近、サッカーのゲーム大会を誰の家でやるのか(*ワールドカップ誘致)などで様々なニュースが積み重なっていたためこの動きはあっという間に広がりました。さらに王立湾岸高校以外の周りの高校にまでカタールとの関係を切るようにプレッシャーをかけていきました。湾岸高校のメンバーはカタールが態度を改め、皆に謝るまで許さないつもりです。ここでカタールは、購買部も利用できないし通学路にあるお店も利用できなくなり、一瞬お昼のお弁当のおかずが一部なくなる危機感に襲われました。特に鶏肉や乳製品、飲料品などはサウジアラビアやUAEから毎日もらっていたので深刻です。

 そんなカタールの様子を聞いた他校のイランやトルコが、

イラン「おいおい、カタールかわいそうだな。安心しろよ、俺たちがいるぜ?」
トルコ「なんだよ、苦労しているな。ほら差し入れだ。俺とお前の仲じゃないか」

と、カタールが湾岸アラブ高校のメンバーから回してもらえなくなったチキンやジュース、乳製品、果物をいっぱい抱えて海を越え、カタールの席まで行ってお弁当のおかずを支援するようになりました。

▲左は断交直後の買い占め騒動が起きたが、翌日には商品は供給されている図(©The Peninsula)
▲「カタール国産品を買いましょう」というカタール経済通産省の広告(©mec.gov.qa)

イラン「ほら、とりあえず今お肉を66トン持ってきたぜ! 安心しろよ、これから毎日100トンの果物と野菜をお前の席まで空輸できるぜ!」

と、イラン、トルコ、そして断交に参加していないクウェートやオマーンはノリノリです。一瞬、これからのお弁当どうしようと心配していたカタールでしたが、この万全の支援を受けて

カタール「俺はこれからも湾岸アラブ高校内でも態度を変えるつもりはないぜ!」

と、この断交に対して立ち向かうことを宣言するという状況になりました。
 
 通学路の移動は苦労しますが(航空ルートの制限)、今のところカタールの台所事情は落ち着き、ここから前もって計画されていた食糧や生活用品、消費財などの国内産化計画に向けて大きく舵を切ることになりました。

▲飲料水販売コーナーにあるカタール国産を強調するPOP(© mohtakec)

 ……と、以上ざっくりし過ぎているかもしれませんが、このような例で考えていただければ、なんとなく何が起きているのかわかっていただけると思います。(『魁!男塾』タッチで漫画化したらわかりやすいかも)

 そしてこの断交の流れに合わせてどういうルートで届いたかわかりませんが、貿易封鎖がされているカタールに日本の「雪見だいふく」が届いたという報告がありました。
 つまり、この事件を契機に、それまでマーケットを占めていた断交国の製品の流通が止まったため、小売店の棚の内容が大きく入れ替わり、新しい製品、ブランドが次々と見られるようになったのです。

▲雪見だいふく、カタールのスーパーマーケットに陳列!

国交断交に対するカタール人と現地労働者の反応

 実際、先述の概要で書いたようにカタールを周辺諸国が断交することにより、ほぼ島国ともいえるような半島国家であり、国土の多くが砂漠のため食料国内自給率が低いカタールは兵糧攻めを受けたと言えます。
 しかし、イランとトルコなどが素早く対応したことでその懸念はなくなり、むしろかつてサウジアラビア、エジプト、ヨルダンなどの企業がカタール内でシェアを占めていた生鮮食品や清涼飲料水等の製品群がトルコ、イラン、クウェート企業の製品などに取って変わる、という事態になりました。兵糧攻めは失敗に終わったと言え、それどころか結果、支援国であるイランとトルコとの結びつきを強めることになりました。
 イエメン内戦に関与しているサウジアラビアがカタールに対しても戦端を開くのでは、という声も一時上がりましたが、さすがに国際社会の目があるのでサウジアラビアがカタールに武力侵攻することは考えられません。
 カタール国内では当初、「湾岸アラブは一つ、またサウジアラビアと仲良くしよう」という声が市民レベルでは多かったのですが、UAEやサウジアラビア国内での、カタールに同情する発言を行う者に対して禁固刑を辞さない、というなかなか過激な処置や、連日の各国の国営放送による舌戦でカタールに対するネガティブな報道が増えたことを受けて、カタール政府を支持する動きに向かうこととなりました。カタールガスやカタール政府に勤めている人たちに話を聞いても

「我々は強固な経済基盤もあるし、私はカタール政府を信じている」
「イランの支援を受けているという点は少し気になるが、カタール政府のやり方はいいと思う」
「少し不便はあるけど、最終的にはどこか適当に落ち着くと思うよ」
など多くが楽観的な声が聞かれました。さらにカタールで働く移民労働者も
「最初はちょっと混乱があったけど仕事もいつも通りだし、食料品の値段も跳ね上がったわけでもないから大丈夫かな、ただ乳製品がないのは困ったね」
「すぐに転職するわけにもいかないし、とりあえず残って働くよ」

……と、すぐさまカタールから逃げ出そうとするような動きはありませんでした。

 それから3年、イランとアメリカの情勢の緊迫化やコロナ禍などのさらなる危機を重ねながら、2020年現在も断交は続いています。サッカーワールドカップのスケジュールが近くなる中で何度か雪解けが噂され、また雪解けが否定されて緊張状態を繰り返すという模様については、後の回で改めてご紹介していきたいと思います。

[了]

この記事は、PLANETSのメルマガで2017年6月16日に配信した同名連載をリニューアルしたものです。あらためて、2020年12月21日に公開しました。