このままだと到来する、2050年の「残念な未来」

 電気代の値上がりは日常茶飯事。停電でマンションのエレベーターが止まるのは「いつものこと」。電力供給が追いつかず、消えてしまう自治体が多数。地方都市では停電したまま3日も復旧せず、水も出ない、スマホも使えない、電気自動車も充電できない……そんな暮らしを想像してみてほしい。
 これはディストピアSFではない。十分にありえる、2050年の日本の日常風景だ。エネルギー産業にまつわる幅広い政策提言や事業創出、発信活動を手がける竹内純子さんは、2017年刊行の『エネルギー産業の2050年 Utility3.0へのゲームチェンジ』(日本経済新聞出版)の中で、そんな「残念な未来」をシミュレーションしていた。人口減少はますます加速し、これまでのレベルでインフラを維持できる地域は減ってゆく。電力自由化によって、経済合理性に見合わないインフラへの投資は絞らざるを得ない。また世界的な脱炭素化の潮流によって、火力発電への依存度は減らしていかねばならない。こうした状況下で、インフラを適切に分散化・デジタル化することができなかったら、「残念な未来」は現実化するだろう──そんな危機的な状況を打破すべく、太陽光発電や小型淡水化装置を活用して完全オフグリッドな自律分散型の住環境を実現しようとしているのが、今回取材に訪れたオフグリッド・リビングラボ八ヶ岳だ。

 新宿駅から特急「あずさ」に乗り、全席コンセント完備の快適な車内でゆっくりと仕事や読書をしながら揺られること、約2時間。立川や八王子、そして石和温泉や甲府を越えると、小淵沢駅に到着する。山梨県の鉄道駅としては最西端で、すぐ先は長野県。いわゆる八ヶ岳エリアの域内で、駅を出ると辺り一面に山が広がっており、南アルプスもそびえ立っている。避暑地・キャンプ地としても有名で、Google Mapを開くと、近くには星野リゾートが運営するリゾナーレ八ヶ岳もあるとわかる。そんな小淵沢駅から車で約10分、2012年の全量固定価格買取制度(FIT制度)の導入で急増したソーラーパネルを横目に山道を走り抜けると、目的地に到着した。

山梨県北杜市は日照時間が日本一長いとも言われており、再生可能エネルギーの電気を優遇的な価格で買い取るFIT制度導入により、太陽光発電所が急増した。政府の再生可能エネルギー導入拡大政策に沿ったものだが、竹内さんは問題点も指摘する。「再生可能エネルギーの導入拡大は重要ですが、地域の自然への敬意があって然るべき。木を伐採して設置された例も多く、誰がオーナーなのかもわからず地域の方は不安を抱えているという声もある。分散型電源は行政の管理が行き届きづらいのに、制度設計も雑でしたし、太陽光発電産業の自律的な動きも乏しかった。地域社会に貢献する、地域社会と共生するインフラのあり方を改めて考える必要があると思います」

 かつて昭和期には観覧車やボーリング場を備えたレジャーセンターがあったという、ちょっとした平地。いかにも避暑地といった趣の、気持ちのいい場所だ。すぐ側には川が流れているようで、耳を澄ますとそれとなく、せせらぎが聞こえてくる。奥には何やらゲルを思わせる白いテントがいくつか建っており、ウッドデッキやソーラーパネルも併設されているようだ。

(撮影:編集部)

 この白いテントの施設が、オフグリッド・リビングラボ八ヶ岳だ。事業を通じて社会課題の解決に取り組む株式会社LIFULL(ライフル)、そして社会インフラ領域のイノベーション推進と新産業創出を目指すベンチャー企業・U3イノベーションズが合同で開所した。2022年3月に実証実験がスタートしてから約3ヶ月、主に2人の人物が身体を張りながら、ここで完全オフグリッド環境の“生活実証”が行われてきた。
 一人は、U3イノベーションズの社員である、川島壮史さん。ふだんは東京都港区に家族と住みながら、週の半分ほどはここで暮らしている。仕事は基本リモートワーク。港区と八ヶ岳、対照的な環境の二地域を行き来しながら、エネルギーの専門家として、主にインフラ設備の基本設計と整備・運用を担当している。

U3イノベーションズ ダイレクター 川島壮史さん。新卒入社した外資系コンサルティングファームで、エネルギー業界を中心に新規事業戦略の策定や業務改革支援に携わる。その後、国内総合電機メーカーでの新規事業開発、テック系スタートアップの経営を経て、2020年2月より現職

 もう一人は、通称“渡鳥ジョニー”さん。フリーランスのディレクターとして関わっている。彼はほぼここに常駐しており、内装からインテリアデザインまで、ライフスタイルプロデュースを全面的に担当している。

渡鳥ジョニーさん。新卒では外資系広告代理店に入社、その後フリーランスに。出身は首都圏だが、2010年から「暮らしかた冒険家」として新しい暮らし方を模索。震災後に熊本へ移住した後、札幌居住を経て、2018年頃から車(バン)をオフィスや家とし、旅をしながら生活する「バンライフ」を実践。そうした経験からLivingAnywhere Commonsへの参画をきっかけに、U3イノベーションズと株式会社LIFULLが連携したオフグリッド・リビングラボ八ヶ岳のプロジェクトを担当
オフグリッド・リビングラボ八ヶ岳のアイドル、ヤギのニーナちゃん。基本的に周辺に生えている雑草を食べて生きているため、ほとんど世話の手間がかからないという(撮影:編集部)

 さらに冒頭でも名前を挙げた、U3イノベーションズの創業者/共同代表である、竹内純子さんも案内人に加わってくれた。エネルギー・温暖化政策の研究者と、エネルギー産業の転換をビジネス面から支援する起業家の二足の草鞋を履く、エネルギー問題の第一人者だ。編集長・宇野も参画している、テクノロジーを用いて都市のオルタナティブを追求していくプロジェクト「風の谷を創る」のメンバーでもある。

U3イノベーションズ 創業者/共同代表 竹内純子さん。新卒で東京電力に入社し、主に環境部門を担当。2011年の福島原子力発電所事故をきっかけに独立の研究者となる。国連気候変動枠組条約交渉に10年以上参加するなど、エネルギー・温暖化政策の提言に取り組む。2017年9月に『エネルギー産業の2050年 Utility3.0へのゲームチェンジ』(日本経済新聞出版社、編著)を上梓したのを契機に、スタートアップと協業したエネルギー変革に取り組むU3イノベーションズ合同会社を創設。2021年11月には、『エネルギー産業2030の戦略 Utility3.0の実装』(日本経済新聞出版社、編著)も上梓した

「完全オフグリッド」暮らしのすべて──電気も水も自給自足、家は持ち運び自由

 到着早々、手慣れた様子で、リモートでラジオ番組に出演する竹内さん。Wi-Fiもしっかり飛んでいるため、東京でできる会議やデスクワーク、そしてオンライン出演の大半はここで行えるという。その間、川島さんとジョニーさんが施設内を案内してくれた。

 まず目につくのが、ソーラーパネルの屋根がついた駐車スペースだ。「ソーラーカーポート」と呼ばれるこの設備は、一般家庭向けにも売られており、総計約10kW、つまり一般家庭約4戸分の電力を賄える。屋根は両面受光が可能なソーラーパネルになっており、反射光による発電も可能だ。オフグリッド・リビングラボ八ヶ岳の電気はすべてこのカーポートで作られており、すぐ近くに見える電線からは一切電気を引いていないという。川島さんは電池の残量とにらめっこしながら暮らす毎日を送っているそう。「今年(2022年)2月の大雪の日は夕方時点で残量が50%しかなく不安でしたが、明け方になっても20%ほど残っていました。意外だったのは、翌日はパネルの上に15センチほど雪が積もっていたにもかかわらず、地面の雪からの反射光で十分に発電できたこと。両面受光ってふつうは発電量が若干増えるオプションくらいの扱いなのですが、完全オフグリッドだと、その有無が死活問題になるのだとわかりました(笑)」。

 ゲルのような白いテントは「インスタントハウス」というもので、LIFULLのグループ会社、株式会社LIFULL ArchiTechのプロダクトとして一般販売もされている。具体的な組み立てプロセスは後述するが、その名の通り「即席で創れる家」で、形状や大きさは必要に応じて自由に選べる。耐用年数は約5〜10年と試算されており、グランピングや災害時などに活用されているそうだ。名古屋工業大学大学院工学研究科の北川啓介教授が、3.11の際に仮設住宅の構築に数ヶ月もかかることに衝撃を受け、二日間滞在した被災地から名古屋に戻り、すぐに開発を開始。国内外でのさまざまな実証試験を経て、2016年に最初のプロトタイプの施工に成功し、特許出願を経て2018年からLIFULLと一緒に実用化した。最近はウクライナ難民の受け入れのため、ポーランドやその近隣諸国から技術提供の引き合いもあるという。
 この施設では5棟連結で各棟に玄関があり、あわせて2LDK、100平米弱の広さに組み立てられていた。「LDK棟」「インフラ棟」「水回り棟」、そして2つの「住居棟」から構成されている。

(画像提供:U3イノベーションズ)

 さっそく中に入ると、洞穴風で雰囲気のいい内壁が目に入ってくる。これはウレタンフォームが硬化したもので、軽量ゆえの耐震性能、また、膨らませた形状ゆえの耐風性能を備え、構造物としても強固である。インテリア側のほぼ全体を包む断熱材としての機能も果たしている。一般的な家屋では断熱材の厚さは5cm程度だが、その倍の厚さであり、また蓄熱しない素材であるため、冬場でもたまにオイルヒーターをつけるだけで、電気カーペットと人の体温だけでも十分に暖まる。夏場も、蓄熱しない素材が太陽からの輻射熱をほとんどカットするため、体感温度はマイナス5〜7℃という結果も出ている。実際、2月末にオープンした直後、八ヶ岳のふもとという地域でありながら、コートを着なくても快適に過ごせたという。

ウレタンフォームの内壁。機能性のみならず、洞窟風レストランのようなこなれた趣も醸し出す

 最初に案内してくれたのは、「LDK棟」。IH対応のダイニングキッチン、電子レンジ、冷蔵庫が揃っている。流しの蛇口からは、後述するように完全オフグリッドで循環している浄水が出てくる。料理上手だというジョニーさんがよく料理を作ってくれて、電子調理器を活用してローストビーフとワインでまさに完全オフグリッドなパーティー、なんて日もあるそうだ。

 続いて案内してくれたのは「住居棟」。寝室兼プライベートスペースだ。ロフト部屋になっており、下には備え付けの机とソファ、ワークスペースがある。ロフトベッドはクイーンサイズで、「洞穴で寝ているような心地よさがある」と川島さん。壁がテント膜とウレタン材だけなので、外音はかなり鮮明に聞こえるそうだ。「朝は鳥の鳴き声で目が覚めますし、雨天時は雨音がとても大きく聞こえます。アウトドア感と言いますか、自然の中で寝泊まりしている感覚が気持ちいいですね」。

 LDK棟のはす向かいには、もう一つの「住居棟」がある。現在はベッドやソファなどは入っておらず、主にミーティングスペースとして利用している。人が訪れたときにはここでパーティーをすることもあるという。ゆくゆくはこの棟も居室にしていく予定だ。

 生活していくうえで欠かせないのが「水回り棟」だ。まずトイレ。いわゆるバイオトイレと呼ばれるもので、おがくずのような基材に混入された微生物によって、排泄物を処理する。山小屋などでも使われている設備のユニットを購入して使っているという。便器のフタを開けて閉めると、中のモーターが基材を撹拌。そこから30分間、微生物活性化のために加温される。分解された排泄物は物理的に蓄積していくので、定期的に外に出していく必要はあるが、有機肥料同然なので、畑に蒔いても問題なし。トイレットペーパーも分解できるので、ウォシュレットはないものの、通常の水洗トイレと同じ使用感を実現している。ユニットから直接ダクトを外に出して排気しているものの、発酵・分解物特有の牧場のような独特の匂いはあるが、いわゆる“トイレのにおい”は感じなかった。
 まるでデザイナーズマンションかのような、洗練されたデザインのシャワーと洗面台もある。サイズの関係で浴槽は入れられなかったというが、頭上からお湯が出てくる仕組みはあり、冬場に体を温めることは可能。もちろん、ここの水もすべて、完全オフグリッドで循環している水だ。

左:バイオトイレの便器のフタを開けると出てくる、微生物が混入された基材/中央:バイオトイレの全体像/右:完全オフグリッドなシャワー

 そして最後は、オフグリッドの生活を支える「インフラ棟」。まず電気。先程紹介した、外のソーラーカーポートで発電した電気が、ここのリチウムイオン電池につながって蓄電される。容量は32kWhで、一般家庭の約3日分の使用電気はストックできるため、雨天により一定程度発電ができなくともほぼ問題ないという。一般家庭のようなブレーカーと分電盤もあり、コンセントで宅内配線されていく仕組みだ。発電量や電気の使用量は、このインフラ棟のモニタとキッチンの簡易モニタで確認できる。「蓄電された電気が底をつくと生活できなくなるので、雪の日はずっと張り付いて見ていましたね(笑)」と川島さん。

 浄水の設備もこのインフラ棟にある。約200リットル入るタンクが2つあり、片方は浄水前、もう片方は浄水後の水が入っている。基本的にはこの2つのタンクを起点に、キッチンやシャワー、洗面台など施設内で使用するあらゆる水が循環しているという。汲み上げた原水を、固形物を取り除くフィルター、浸透膜に圧力をかけて真水を取り出す「逆浸透膜」という技術、そして塩素を注入する技術などを用い、何段階ものプロセスを経て一般的な水道水と同等の品質の浄水へと変えてゆく。1時間あたり約100リットルの水を浄化することができるが、一人当たりの1日の使用量がだいたい150リットルほどなので、この浄化設備を毎日1〜2時間稼働させれば十分だ。現状はシステムの作動は手動で指示する必要があるが、ゆくゆくは自動化する予定だという。

 一通り施設内を案内してもらったが、特筆すべきは「インスタントハウス」という名称の通り、この家自体の設営や持ち運びが容易にできるという点だ。外のテント膜は、もともと縫製された状態で、大きめのスーツケースくらいの大きさに折りたたまれていたそう。それを広げて入り口からブロワーで空気を入れると、気球のように立ち上がる。そして中に入ってウレタンフォームの断熱材を10cmほどの厚さにグルグルと吹き付け、ウレタンが硬化して3時間ほど待つと、インスタントハウス全体の内壁が完成する。そもそも15平方メートルのインスタントハウス全体で約300kgほどなので、近場の引っ越しなら大人数人の手で担いで移動できる。少し遠くまで運びたいときも、テント膜の切れ目に沿ってスイカのように切り分ければ、トラックで持ち運べるサイズになる。再設営の際は、内側からベルトを入れて同じ形に立てればすぐに完成する。
 この可搬性の高さゆえ、北杜市からは建築物ではなく「工作物」として認可されているという。実際、オフグリッド・リビングラボ八ヶ岳の開設に際しても、家屋そのものは約2日で立ち上げた。ウッドデッキの建設やインフラ、内装の整備をあわせても、更地の状態から3ヶ月ほどで建設が完了したという。

建設過程の様子。更地の状態から、約3ヶ月で現在の状態へと作り上げた(写真提供:U3イノベーションズ)

 ちなみに同じ平地内、この施設の向かいには、しっかりとしたペンション風の建物もある。これはLIFULLが運営する「LivingAnywhere Commons八ヶ岳北杜」だ。共用の生活拠点であるシェアハウスと、コワーキングスペースの特徴をあわせ持つ「コリビングサービス」であり、自宅やオフィスなどの場所に縛られないライフスタイル「LivingAnywhere」を共に実践することを目的に運営されているコミュニティ「LivingAnywhere Commons」の一拠点だという。Wi-Fiや電源などを完備したワークスペースとキッチン、シャワー、宿泊ルームなど長期滞在を可能にしたレジデンススペースからなる複合施設。月額27,500円を払ってメンバーになることで、この拠点を含む日本各地の拠点を、いつでもどこでも利用できるという。オフグリッド・リビングラボ八ヶ岳は、このLivingAnywhere Commons八ヶ岳北杜の敷地内に建てられたかたちだ。

 ここまでで取材の前半戦は終了。以降はラジオ出演が終わった竹内さんも交えて、この施設の背景に込められた思想や、ここにたどり着くまでの道のりについて、住居棟でじっくりインタビューした。

リスクへのまなざしなき「脱原発」への違和感

──詳細にご案内いただき、ありがとうございました。デザイナーズマンションのような小洒落たインテリアであるにもかかわらず、完全オフグリッドのインフラ環境、さらには可搬性も高いというギャップに驚かされました。
 ここからは、その背景にある考えや軌跡をじっくりうかがっていきたいです。竹内さんはオフグリッド・リビングラボ八ヶ岳の立ち上げに行き着くまでに、どのような思考や実践を経てきたのでしょうか。もともと新卒で東京電力に入社したんですよね?

竹内 ええ。最初の4年は上野にある営業所で、窓口での料金収納や、停電時のお叱り電話への対応といった、現場第一線の仕事をしていました。その経験の中で、電気というものを、生活に密着した、すごく手触り感のあるものとして捉えられるようになりましたね。「年金が出たからやっと払えます」と2ヶ月前の電気代を払いにくる高齢者の方と接していると、電気代の負担の重さが体感できましたし、停電が起きて何時間にもわたるお叱りの電話を受けていると、「インフラ中のインフラ」と呼ばれる電気の安定供給がいかに重要かがよくわかる。日本のエネルギーは大転換期にあり、消費者も変わっていく、事業者も変わらなければなりません。でも、軽々しく「多少値上がりしても」「多少電気の安定供給が滞っても」とは、私は言えません。
 その後は自然保護や地球温暖化の国際交渉に関わる環境畑の部門にいました。実は東日本大震災前、日本は非常に高い温暖化目標を掲げたため、政府は原子力発電所を大幅に増やす方針でした。10年で全国に9基新設するといった無茶な目標を提示されても、電力会社としては対応できません。「国内での原子力発電所新設が難しいなら、ベトナムなどに日本のメーカーの持つ原子力技術を輸出し、日本のCO2削減の貢献分にカウントすることはできないか」という政府の方針の下で、その実現性を検討していたのが、私が3.11以前にやっていた仕事でした。それが福島原子力発電所の事故が起きて政府の方針も輿論も一変しました。まさに180度の転換です。

──あの日を境に、原発に対する世論はガラリと急変しましたものね。

竹内 もちろん、あれだけの事故を起こしたので政策の見直しは当然ですし、東京電力はなぜ事故を防ぐことができなかったのか、考え反省し続けなければなりません。ただ同時に、「そんな簡単に止められるものをやっていたわけではない」とも感じていました。資源のない日本にとって、必要だからやってきた。CO2の増加やエネルギー安全保障の意義など、脱原発のリスクについても誰かが指摘しないと、エネルギーの議論が非常にフワフワとしたものになってしまう──そう思って2011年末に東京電力を辞め、独立の研究者となりました。皆さんに、エネルギー政策の現場感、現実感を伝えたいと思ったのです。
 2017年には、共著で『エネルギー産業の2050年 Utility3.0へのゲームチェンジ』という本を出しました。2050年という、少し先に視線を向けることで、これからどう変わりうるのか、どう変わっていくべきなのかを提言したんです。書きっぱなしではなく実現していかなければと思い、2018年には共著者の中の一人である伊藤剛と、エネルギー産業に新しいプレイヤーや変革を生み出すためにU3イノベーションズを共同創業しました。

──その中でどのようにして、オフグリッド・リビングラボ八ヶ岳の構想に行き着いたのでしょう?

竹内 エネルギー転換は必要ですが、エネルギーだけ変われば良いのか? エネルギーが変わったら、私たちは幸せになるのか? ……そう思案したとき、エネルギーが変わるだけでなく、エネルギーで何かを変えることが必要だと考えました。さまざまな領域の企業と一緒に産業融合を通じた新事業や新サービスの開発を推し進めていく中で、「インフラ屋」として最も強い問題意識を持っている、地方における人口減少・過疎化に対応する事業に早く取り組みたいと思ったんです。日本全体の成長が縮減する中で、過疎地ではあらゆるネットワーク型のインフラの維持が難しくなっており、なおかつエネルギーはその象徴ですから。
 一方で、最近は新しい技術によって、これまでよりも低コストでエネルギーや水を供給できる可能性が生まれつつあります。ただ、要素技術はあっても、それをパッケージにしてインフラを担うに足る安定性や安全性に高め、コストを下げていく“最後の一歩”を担っている人がいない。そう気がついて2020年後半頃に、U3イノベーションズで取り組むことにしたんです。

川島 そして2021年の3月に、LIFULL創業者・代表取締役社長の井上高志さんとお話しする機会をいただきました。僕らとしてもLIFULLが運営するLivingAnywhere Commonsの世界観にはもともと共鳴していたのですが、構想を話すと、「良い場所がある。八ヶ岳だ。作ろう」とほぼその場で立ち上げが決まりまして(笑)。そこからいろいろな文献リサーチや有識者の方へのヒアリングをゼロから重ねてゆき、2021年12月には着工に至りました。

マーケットで「叩く」ことこそ、“枯れた技術”への最短経路

──地方のインフラを維持できなくなるという問題を抱えている国は日本だけではないと思うのですが、参考にしている海外事例などはあるのでしょうか?

川島 イスラエルのエネルギー会社・The Sustainable Groupが展開している、「A Village in A Box」というソリューションには注目しています。数百戸単位で人々が住める、オフグリッドの集落を作ろうというものです。彼らのほうがもっとスケールが大きくて、風力発電なども実装していますが、使っている技術はけっこう似通っていて、エネルギーや水をそのサイト内で融通し、廃棄物処理も完結させています。
 ただ、取り組みの目的は少し違っていて。彼らは人口減少ではなくむしろ人口爆発、住む場所がどんどんなくなっていく中で、砂漠でもソリューションを持ってくれば住めるようにする「デザートテック(砂漠テック)」というコンセプトで取り組んでいます。対して、僕らのコンセプトは今まで大きな誰かに任せていた部分を、自分たち、生活者側に取り込んでいくということです。

──デザートテックは「新たに住める場所を増やす」取り組みで、オフグリッド・リビングラボ八ヶ岳は「住めなくなってしまう場所をなくす」取り組み。アプローチ自体は似ていても、取り組んでいる課題は正反対ですね。

川島 僕たちが特にアプローチしたいのは地方の過疎地です。日本全体の約8割を占める、インフラの維持が難しくなっている都市圏ではない自治体に、今でも約2割の人口が住んでいるわけです。例えば、ガソリンスタンドが少ない「SS過疎地」がリアルに出てきていて、地元の人たちが運営権を買い上げて運営しているところもある。水道だって全国の水道事業体の約半分が構造的な赤字だと言われていて、税金を投入しても水道管の老朽化は進む一方ですし、エネルギーも同様です。
 大規模で集中型のインフラに依存して住むことができた世界は、既に過去になりつつあるのです。こうした問題意識のもと、オフグリッド・リビングラボ八ヶ岳では、大規模インフラに支えられたエネルギーと水のシステムからの転換を図っているんです。自律分散型のインフラで生活が成り立つということを、まずは実地で生活してみて確かめましょうと。

──過疎地域でも成り立つ自律分散型のインフラというビジョンの実現に向けて、どのように歩みを進めていく構想なのでしょうか?

川島 むこう10年で、維持が難しくなった地方の社会インフラをリプレイスする産業を作り上げようと考えています。今回の実証実験は、そのためのプロトタイピングの段階。ここで使われている技術はどれも、他でポピュラーに使われているもので、特別に開発した技術はありません。既にある技術の組み合わせで新しいインフラを実現するのが、今回のコンセプト。インフラとして普及させていくうえで、あまりにカッティングエッジな技術は使えません。どこでも使われていて、安全で、安い。そうした“枯れた技術”を使って、初めてインフラになるのです。
 そのためにはしっかりとマーケットに出して、商用ベースでコストと品質を磨いていくのが近道だと思っています。そのファーストステップとして、ハイエンドでニーズもたしかなグランピングレジャーからマーケットインしていくのが有効だと考え、2023年の商用化に向けていま仕込んでいる段階というわけです。昨今はグランピング場の開業ブームではあるものの、絶景ですごくいい土地であればあるほど、水道をはじめとしたインフラが準備できなくて開業を諦めているケースが少なくない。そのインフラ部分を、グランピング場の運営企業と一緒に開発していくサービスなどを提供していけないかと考えています。

──過疎地域の課題解決をビジョンに据えながら、第一歩目をグランピングという全く異なる領域から始められているのが、面白いですよね。

川島 コストベースで考えると、グランピングから始めることはけっこう自明なんです。出発点としては、一過性のインフラコストを厭わず、でも高い品質を求めている層がマーケットとしては合うはず。例えば海の家のシャワーは、リッターあたりの価格に換算したらものすごく高価ですが、レジャーの一環として水を使いたいというニーズがあるからそのプライシングが成り立っているわけです。もちろんコストはこれからどんどん下げていきますが、グランピングも同じです。

竹内 一過性ゆえに顧客のタイプや使われ方のバリュエーションも出やすく、多種多様なデータを取れるという点でも利点がありますよね。技術というものは、叩いてこなれさせていくことがすごく大事だと思うんです。いくら実験室レベルで開発された技術があっても、コストが安くならないと普及していかないし、既存のものよりも利便性が劣るのであれば、誰も買ってくれない。きちんとマーケットを探して、技術を叩いていく。イノベーションとは結局こういう地道なプロセスで、そんなかっこいいものではないんだろうと思います。

──“枯れた技術”を使うことが求められるインフラこそ、まずは市場に出して磨き込んでいくことが大事だと。

竹内 そのときに必要なのは、「分野を超える」ことだと思っています。例えば、電気だけのオフグリッド技術などは他にもけっこうあるのですが、それだけでは生活は成り立たない。一つの分野に閉じてしまうと、技術を高めることばかり意識してしまい、「それで生活を成り立たせられるんでしたっけ?」というポイントに目が行かない。私たちは「電気屋」でも「ガス屋」でも「水道屋」でもなく、“インフラ屋”という仕事を生み出そうと思っているんです。補助金漬けで実質的にはビジネスとして成り立っていなかったり、規制によって投資回収が確実に担保されていたりするのではない、本当にマーケットで勝てるインフラ屋になっていきたい。

川島 ユーザーのニーズを徹底的に吸い上げて、ちゃんと叩いて叩いて、インフラとして作り込むには、ビジネスとして成り立たせるのが最短経路。ビジネスから始めているのは、シンプルにそれが最もシビアな環境だからです。だから、早く商業化しないといけない。実験だけを続けていても、社会実装にはつながりません。実証実験を3ヶ月やってみて、とりあえず思い描いていたことができそうだとわかったので、なんとか2023年に商用化に持っていきたいです。
 そして、レジャーの次は住宅を考えています。一過性のレジャーの後は、定住、もしくは別荘的なものを前提とした住宅への組み込みにチャレンジし、最終的には10年後に維持が難しくなった地方のインフラを段階的にリプレイスするところまで持っていくというのが、今描いているロードマップです。

──グランピング市場で技術を“叩いて”、その上で満を持して、住宅のインフラとして磨き込んでいくと。

川島 それからもう一つ道筋があり得るかなと思っているのが、防災です。レジリエンスの観点は、今回のプロジェクトでも非常に強い関心を寄せていただいておりまして。自治体が防災拠点を作らねばならなくなったとき、停電してしまったら元も子もないですし、地震だと断水も起こりやすい。そういうときに、オフグリッドで自律分散型のインフラの存在はかなり貴重でしょう。とはいえ、ただ箱だけ作ってずっと寝かせておくのではもったいないので、平時はレジャーに使いながら、非常時には防災拠点として活かしていくかたちを考えています。防災に役立てることで、社会インフラとしての安心感も醸成できると思いますしね。

「100%太陽光エネルギー」を目指さない理由

──ビジョン実現の第一歩として実際に暮らしてみて、見えてきた課題もたくさんあると思います。その所感も聞かせていただけますか?

ジョニー ここはライフスタイル担当の僕がお答えしますね(笑)。例えば電気は、晴れの日の発電量は思った以上でしたが、やはり曇りや雨の日が数日続くと不足気味になってしまうこともある。でも面白いのは、先程川島さんが話していたように、雪の日は意外にも地面からの反射光をパネルの下面で拾ってくれて、発電してくれるんですよ。それからIHでガンガン調理したりと、すごく電気を食いそうな使い方をしても、短時間の利用であればあまりバッテリーが減らなかったのが意外でしたね。

川島 強いて言えば、利用頻度が高く常時稼働しているバイオトイレの撹拌と加温が意外に電気を使いますね。IHやヒートポンプなど、あからさまに電気を食いそうなものよりも、オフグリッドにまつわる電気の需要が地味に大きいのだなと気づきました。

竹内 こうやってデータをとってみるとわかることですが、人々が意識している「省エネ」って、たぶんすごく表層的なんですよ。エネルギーは生活の中の意識していないところで、意外と使われているんです。 

ジョニー でも、すごく自然環境を意識するようになりましたね。曇りの日が続きそうなときは「節電しなきゃ」という気持ちになるし、逆に晴れの日が続いているときは夜中だろうがガンガン使ってしまう(笑)。

竹内 太陽が照っただけでお金持ちになったような気がするという(笑)。曇りが続くと貧乏になった気分になりますしね。

川島 私財感がありますよね(笑)。

──これから梅雨に入って日照量が減っていくわけですが、乗り切る手立ては講じているのでしょうか?

川島 厳しいと思います。年間のシミュレーションも取っているのですが、やはり梅雨や冬の時期はショートしやすいと見ています。ですから現実的には、うまくバックアップをする必要があるだろうなと。現実的に商用ベースに乗せようと思うと、CO2は出てしまいますが、プロパンガスや灯油など、既に地方のインフラになっているものと組み合わせることになるでしょう。給湯や空調は電気だけでなく、直接それらの熱源を使いまわしてもいいかもしれない。次のステップとして、100%太陽光ではないハイブリッドを模索していきたいです。

──夏にたくさん発電した分を取っておく、というアプローチは難しい?

川島 そうですね。季節を越えて蓄電しておく大規模なバッテリーが別に必要になるので、それを一年間の特定の期間しか使わないとなると、コストが見合わなくなってしまいます。価格を適切にするために、電池はむしろ減らしたくて。

竹内 バッテリーというものは基本的に数時間、数日単位のものです。例えば今よく話題にのぼる水素なら、たしかに季節をまたいでエネルギーを保存はできるのですが、えらいコストがかかります。結局、バッテリーやソーラーパネルの量をガンガン増やして賄うアプローチだと、適切なコストで実現するインフラにはならないんです。

──「お金をかければできるのだけれど……」というものがいくらあっても、社会はなかなか変わらないと。

竹内 完全な自給自足の生活を実証するために、コストをかけてたくさんバッテリーを置いておくという考え方を否定するわけでは決してありません。しかし、実用的なインフラを目指す我々としては、理論的な理想値を取りに行く意味はあまりない。保険として別の手段を組み合わせて解決するのであれば、使ってしまえばいいと思っています。

サブカルチャーからライフスタイルへと昇華させるために

──そうした実証実験を経て、これから目指していく方向性について、もう少し突っ込んでうかがいたいです。グランピングの段階から一般住宅で使えるインフラの段階へと進んでいく際に、今の我々のライフスタイルをオフグリッドでも同じように成立させていくアプローチと、オフグリッドならではの新しいライフスタイルを提案するアプローチ、二つの方向性がありえると思うんです。どちらを想定しているのでしょうか?

川島 両方ありえると思っています。もちろんU3イノベーションズのビジョンに鑑みると、今ある暮らしを諦めないため、インフラだけを置き換えてサステナブルにすることを目指すのが第一です。一方で、ライフスタイルそのものが変わっていく可能性も絶対あると思っていまして、実際にオフグリッドを起点とした新しいライフスタイルによる新産業創出の取り組みも準備しています。 
 例えば、オフグリッドなインフラが実現したら、ジョニーさんが実践していたバンライフのように、インフラごと住まいを移動させて生活することも、さらにやりやすくなるでしょう。砂漠や海上でだって、暮らせるかもしれません。そうした新しいライフスタイル全般にまつわる領域を、いろいろなプレイヤーを集積して一大産業にしていこうという議論はしていますね。

ジョニー 僕はよく、「まだ20世紀型の家に住んでるの?」って思うんですよ。21世紀になってもう20年以上経ちますし、狭くて画一的な区画を借りて暮らすという戦後にできた住宅パッケージは、そろそろ変えてみてもいいのではないかなと。これから自動運転技術もどんどん発展していく中で、家と車、暮らしと旅の境目がどんどんなくなっていく。オフグリッドのインフラのパッケージがあれば、そうした新しいライフスタイルの可能性が、どんどん切り拓かれていくと思うんです。実際、ここLivingAnywhere Commons八ヶ岳北杜は、JAXAの「THINK SPACE LIFE」というプロジェクト(編注:宇宙生活の課題から、宇宙と地上双方の暮らしをより良くするビジネスを共創するプロジェクト)の実証実験の場所としても使われていまして、この施設の隣に以前に建てたインスタントハウス内を宇宙ステーションの中と見立てて、宇宙生活でも地上生活でも使える、商品・サービスの実験を行いました。

──LivingAnywhereやデジタルノマドなど、世界各所で新しい暮らし方や働き方が出てきてはいるものの、比喩的に言えば、まだまだクリエイティブクラスのサブカルチャーにとどまってしまっている側面は否めないと思うんですね。例えば、LivingAnywhereを普及させようとすると、教育や医療、介護といったインフラへのアクセスが問題になるはず。都市部のクリエイティブ・クラスの現役世代だけじゃなくて子供や高齢者、あるいは相対的に経済力の低い人たちを射程に収めないと、なかなかサブカルチャーからライフスタイルへと昇華させていくのは難しいように思えます。

川島 技術だけでなく、社会制度や文化も変わっていかなければいけませんよね。例えば、このコロナ禍で、文化レベルでリモートワークが一気に普及したことはみなさん実感しているわけじゃないですか。僕らの会社だけでいきなりそこまでアプローチするのは難しいですが、最終的にはそうしたレイヤーの変革が必要になるのはたしかでしょう。

竹内 課題がチャンスなのだと思います。例えば、インドでは教育が行き届いていない地域にも教育を、と考えたとき、ゼロから学校を建てようとすると莫大なコストや時間がかかるので、もっとクイックに解決することを目指してたくさんのEdTech(エドテック)のスタートアップが台頭しています。日本のインフラもこれからますます課題が深刻化することは確実ですが、ピンチは変化のチャンス。皆さんがピンチを認識したときにちゃんと、「技術はあるよ」と言えるようになっておきたい。

川島 インフラを整えればそれだけで暮らし方を変えられるかと言えば、もちろんそうではないでしょう。でも、アメリカでは既に公立の義務教育の範疇でフルオンラインでOKという制度も出てきていて、それこそバンライフをしながら教育を受けて暮らしている子どもが増えているそうなんです。最後のトリガーである教育や医療、働き方などの制度を変えるためにも、結局は段階的に変えていくしかないと思っています。今の社会システム全体をオセロのように一気にひっくり返すのは、たぶん難しい。そのためにも、ニーズが生まれたときに使ってもらえる技術的な環境を整えておく、先鞭をつけて周辺から事例を作っていくというのが、僕らの取り組みの意義なのではないでしょうか。
 ただ、僕らは社会課題の解決に貢献しうる産業創出をビジョンにしてはいるものの、課題を課題として押し出していくのはあまり良いアプローチではないと思うんですよね。「課題」という言葉にはネガティブなイメージがつきまといますし、自分ごとにもなりにくい。でも、「楽しい未来」を掲げた瞬間、自分ごとにしてもらいやすくなる。だからこそライフスタイルや体験に落とし込むことが大事だと思っています。

施設の端には、軽トラックで作られた「サウナトラック」も置かれていた。サウナ室は荷台の木のドアの中にあり、水風呂はすぐ側に流れている川だ。「サウナと川に入って、脇に置かれている椅子に座っていると、最高にととのうんですよ」とジョニーさんは嬉しそうに語っていた

ジョニー そこはまさに僕がライフスタイルプロデューサーとしてこだわっているところでして。オフグリッドというと、エコビレッジ(編注:環境負荷の少ないサステナブルな暮らしを追求し、デザインされた小規模な地域・コミュニティ。1960年代のデンマークで生まれたと言われ、1980年代のエコブームの際に世界中から注目を集めた)のようにとかくローテクだったり我慢を強いられたりするイメージが湧きがちだと思うのですが、都心と変わらない快適さで生活できるようにしたいんです。小洒落たコンドミニアムのような環境でがっつり料理もするし、なんならサウナも入ったりと、下手したらQOLが上がっているのに「実はインフラがオフグリッド」という驚きを生み出したいんです。
 そもそも日本人って、オフグリッドというものに対して、かなり興味が薄い。少なくとも現時点では、日本ではどこの地方に行っても、ほとんどインフラが整っているからです。日本で「オフグリッド」と検索すると太陽光発電の情報ばかり出てくるのですが、海外だと必ずしもそうではありません。日本で「自律分散型インフラ」の実証実験をやると言っても、ほとんどの人に「やる必要ある?」という反応をされる。ところが実際には、人口減少が加速している日本は地方インフラを維持していくことが困難になりつつある、まさに沈みかけたタイタニック号のような状況なわけです。だからこそ、楽しさの観点からワクワクしてもらうことが必要だと思うんです。僕自身、オフグリッドの入り口って、社会課題とかじゃなくて、自分のエゴとロマンだったわけです。周りのいろいろなものに依存している都市生活が合わなくて、バンライフのような自律分散環境で「何があってもとりあえず生きていける」という状態にいたほうが、単純に自分の精神衛生上よくて、幸せだった。

──そのワクワク感を、都市部出身のクリエイティブクラスの外にいかに広めていくかが、カギとなると思います。比喩的に言えば、港区と北杜市は、もう既につながっていると思います。でも、練馬区や町田市と北杜市がつながることが次の段階として重要だと思います。戦後中流的なかつての「普通」の暮らしを疑っていない人たちにも「こういう暮らし方もありかも」とワクワクしてもらえたとき初めて、新しいライフスタイルを生む、大きなうねりになっていくのではないでしょうか。

竹内 そうですね。我々が最終的なターゲットにしている、既存インフラの維持が難しくなっていく地域の方々も、現時点ではそれほど問題を感じてはおられないわけです。「なのに、なんで不便なオフグリッドにしなきゃいけないの?」と思われないために、ワクワクを起こして、なおかつコストも叩いていかなければいけない。

ジョニー まずはワクワクする新しいライフスタイルを発明して、その過程において徐々に発明として置き換わっていく、そういうプロセスが必要なのだと思います。その意味ではここはいずれ、新しい暮らしを体験できるテーマパークのようにしたいと考えているんです。ヤギがいるとか、キャンプができるとか、トレーラーハウスに泊まれるとか、そういうレジャー目的で来てもらうのですが、実際に寝泊まりする中で「普段の暮らしもこっちのほうがいいじゃん!」と価値観が変わっていく。まさに21世紀の住宅展示場のような感じで、新しい暮らしのパッケージを体験できる場所にしていきたいと思っています。

[了]

この記事はU3イノベーションズ合同会社とのタイアップのもと制作されました。宇野常寛・小池真幸が聞き手、小池真幸が構成をつとめ、2022年6月30日に公開しました。photo by 蜷川新
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