「庭プロジェクト」とは、これからのまちづくりについて、建築から人類学までさまざまな分野のプロフェッショナルが、官民産学を問わず集まって知恵を出し合う研究会です。
今回の研究会では、デジタルファブリケーションを軸に都市の資源循環を研究してきた、ボードメンバーの田中浩也さんによるプレゼンテーションが行われました。近年の鎌倉での資源循環の実践・研究の中で浮かび上がってきた、「ハーベストシティ」(資源収穫都市)というコンセプト。前編では、田中さんがハーベストシティの研究・実践の軌跡と可能性について話したプレゼンテーションの内容をお届けします。
「庭プロジェクト」の連載記事は、こちらにまとまっています。よかったら、読んでみてください。
端的に言うとね。
「リサイクル率(中都市部門)全国1位」の街・鎌倉
今回の研究会では、ボードメンバーの田中浩也さんによるプレゼンテーションが行われました。デジタルファブリケーションを軸に都市の資源循環を研究してきた田中さんが、今回のプレゼンテーションのキーワードとして掲げたコンセプトが「ハーベストシティ」でした。
「『ハーベスト』と聞くと、野菜を育てるとか、はちみつの収穫とか、そういった有機的で優しいイメージを持たれると思います。しかし、私はもう少し広い概念として捉えています」(田中さん)
この「ハーベストシティ」というコンセプトは、田中さんの鎌倉での研究・実践の中で辿り着いたもので、2026年春学期には慶應義塾大学SFC田中浩也研究室の学期テーマとして、学生たちとこのテーマの深堀りをしているそうです。。きっかけは、コロナ禍の時期、鎌倉の日常の舞台裏に着目するところからだったといいます。
「鎌倉と聞くと、歴史があって、神社仏閣があって、富士山が見えて、海が綺麗でサーファーがいる、といったイメージを世間では持たれていると思います。しかしそれは表舞台にすぎず、実はその裏には、特有のゴミとの付き合い方があるんです。鎌倉はリサイクル率が全国で1位(人口10万人~50万人の中都市部門)でして、自治体のリサイクル率は全国平均が19%のところ、鎌倉は58%もあります。それを支えているのが『21分別』と呼ばれる、かなり細かい分別の習慣です。燃やすゴミは有料で、残る20種類は紙やビン、金属などの資源ゴミとして、曜日ごとに素材が割り振られている。その曜日と材料がセットになって頭に入っている、というのが鎌倉市民の日常なんです」(田中さん)
この隠れた側面をさらに膨らませられないかという発想から生まれたのが、慶應義塾大学の慶應鎌倉ラボです。2024年には庭プロジェクトのメンバーも見学に訪れました(分断を生まない「市民参加」はいかにして可能か──「鎌倉」のスマートシティ政策から考える)。COI-NEXTという国の研究プロジェクトの一環として、2032年まで同地で活動する計画だといいます。
市民や事業者から、プラスチックを「収穫」する
「21分別」の中には、月1回だけ回収される「製品プラスチック」があります。洗濯かごや洗面器のような、容器包装ではない製品です。2022年にプラスチック資源循環促進法が施行され、横浜市や新潟市も回収を始めましたが、鎌倉市は2015年から回収を続けてきました。そうして集めた製品プラスチックから生まれたのが「セミダブルベンチ」です。
「幅が一般的なベンチの1.5倍ほどあるので、ペットを膝に乗せられたり、いろんな向きに座れたりと、多様な使い方ができるんです。かばんかけとビンホルダーもついています。日曜の市役所は閉まっているので、市役所前がガラ空きなんですよね。一人でのんびりするのに最適かもしれません」(田中さん)

ただし、このプロジェクトの裏側では、材料そのものに起因する苦労が絶えなかったともいいます。
「回収したプラスチックの資源に、金属がけっこう混ざっているのがわかったんですね。例えばハンガーのかける部分は金属でできていることが多くて、どうしてもそれが最後まで混ざりこんでしまう。でも金属片がプラスチックに入っていると、我々のラボの装置が壊れてしまうんですよ。それからプラスチックも、いろんな種類が混ざっているのがややこしい。また色も絵の具と同じで、いろいろな色の物体が混ざると黒くなってしまって、それ以上は色のつけようがなくなってしまう、という問題がありました」(田中さん)
そこで試したのが、回収品目の絞り込みです。本の返却ポストに着想を得た「資源ポスト」を市内に設置し、市民に呼びかけました。本を返すための返却ポストのようなイメージで、鎌倉市役所と、市内の支所、教育委員会のロビー、田中さんのラボなどに資源ポストを設置しました。
回収品目は実験的に状況に応じて変わるといいます。これまでメインで扱ってきた一つは洗剤の詰め替えパック。とりわけ金属が含まれておらず、緑系や青系が多い洗剤の詰め替えパックは再利用しやすく、このプラスチック材料を使って、学生たちと一緒に新種の公共アイテムを考える取り組みを行ってきました。


洗剤詰め替えパックは、その包装印刷の色の傾向から、材料としては青系か緑系のくすんだアースカラーになります。それらは公共アイテムとしては比較的なじむ色だったといいます。しかし他方で、デザインを行う上では、どうしても「透明」が欲しいときがあります。向こう側が透けて見えたり、中から光を出したいというときがあるんです。透明なプラスチック源として注目したのが卵パックでした。
「透明なプラスチックは何からとれるだろうか?と考えたときに、良さそうだったのは卵パックです。我々の調査では3人家族でだいたい週に2個から3個ぐらい回収できる。卵は価格弾力性がけっこう小さいので、安定的に回収できるものだと思っています。実際にラボの前に卵パック専用の資源ポストを設置して回収してみたところ、さまざまな地域の人が持ってきてくれて、毎月200個ぐらい集まることがわかりました」(田中さん)
パックの色としては大きく分けて透明のものと赤系のものがありましたが、透明と赤を混ぜるとピンクの材料ができるという性質を活かし、研究室の学生(矢田美涼さん)が湘南の夕日の色を再現する研究に取り組んだといいます。海から空までのグラデーションを、薄紫からピンクから黄色にかけて、卵パック材料の色の比率をちょっとずつ変えたり、透明度をちょっとずつ変えたりする技術を使って、湘南風の色を再現。「たまごころ」と名付けられ、お正月に湘南モノレールの湘南江の島駅に設置されて人気を博しました。
(出典)
(出典)

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注目したいのは、この「たまごころ」が需要から逆算して作られたわけではない点です。田中さんは、収穫できた量が生産量を規定するという順序を、あえて崩さずに製造することを重視していました。
「例えば『すごく綺麗だから300個作ってください』といったオーダーが需要側から来ても、そもそも材料がないのでできないということになる。収穫できた量しか作れないということをベースに、いかにして無理のない中量生産システムで持続させられるのかを議論しているところです。
我々のポストで年間で回収される材料で作れる量が1年で138個ぐらいなのですが、周りの卵パックを持ってきてくれる界隈の商店街の数がだいたい130軒で、だいたい数的に合っているので、持ってきてくれたお店の人たちの前に取り付けていくのもいいのでは、というようなことを学生ゼミで議論しています。
そうして街全体がショールーム化していくことを目指すのはどうかなと考えています。家庭から集められる資源の候補は、ほかにも検討しているところです」(田中さん)
資源の収穫源は市民だけではありません。2番目の柱として、田中さんは事業者からの資源の回収も試みています。
「2年前、鎌倉の中でサッカー場が移転することになり、『人工芝が大量に出るので何かに使えますか』と相談されたことがありました。ただ、人工芝はけっこう難しかったです。砂だらけですし、砂の部分と草の部分が糸で縫い付けられたりしていて、結局は作業負荷的に試作までしかできませんでしたが、論文にはなっています(参考)」(田中さん)
現在進行中なのは、街頭のウォーターボトルです。
「ウォーターボトルが街に設置されていますが、中が飲料水であることもあって、5年で使うのを止めるのが通例であるとお聞きしました。ウォーターボトル材はポリカーボネートですが、ポリカーボネート材はプラスチックのなかでも屋外で使えて、わりと耐久性と耐候性が高い部類として知られていて、ぶつかっても壊れにくい。このウォーターボトルからとったプラスチックで遊具を作ってみています」(田中さん)
そうしてラボの研究員メンバーが開発している遊具が「ぷかぷかドーム」です。年齢によって遊び方が変わる点に、田中さんは面白さを見出しています。
「実証実験の中では、2〜3歳児は親にゆらしてもらったり、4歳児になると自分で揺らして遊んだり、6歳とか7歳とかになると揺らすこともせずにおしゃれに座ったりしているのが面白いなと思いました。ゆりかごとそりの合体系というコンセプトで、ゆりかごのように揺れつつ、そりのように家から持ち出して遊んだら持って帰る、持ち運びのしやすさの両立を考えています。ただ、遊具は安全性と耐久性が大事なので、実用化にはもう少しかかりそうです」(田中さん)
最後に、第3の収穫源として研究しているのが、家庭から集めるのでも、事業者から集めるのでもなく、都市空間に放置された資源を回収する方法です。
「修士の学生がカラーコーンの収集をしていまして。都市空間のなかに壊れたカラーコーンはけっこうあるんですけど、これを集めて何に形を変えるかを検討しています。ただ、壊れたまま放置されているものの処置もけっこう難題で、一応所有者がいるので盗んだことになって捕まらないか、などのルールも整備していかなければいけません。市民から回収するゴミだとわかっているものは回収できるのですが、実はこの世には、まだゴミと確定していない中間状態のものがたくさんあり、都市空間に放置されているんです」(田中さん)

家庭から山・海まで。街全体に広がる、有機物の「収穫」
ここまでプラスチックをはじめとした無機物についての話がなされましたが、ここから話題は有機物へと移っていきます。

「こうして家庭系から事業系、さらには都市に放置されている資源までを調べていくと、市内全域の資源分布がよくわかってきました。私は鎌倉市内は自転車でしか移動しないので、地理も地形も頭に入ってきました。鎌倉は山があって、海があって、レストランがあって、住宅街があって、お寺もあるので、わりと街全体で資源が多種多様にあります。例えば山側では放置竹林が問題になっていましたが、そうした竹が品質によってさまざまな行き先へと向かっています。竹も、マダケ、モウソウダケ、アオダケなどさまざまな竹があります。品質の良いものは鎌倉竹細工というグループが、美しいものを竹細工にしてホテルに設置したりする使い道を開拓されています。、他方、品質の悪いものは竹チップにしてコンポストに入れるか、竹パウダーにして道路の舗装に使うなどの検討がされています。
また海側では、浜辺に放置されていた、売り物にならない海藻から、ブランド豚の飼料とする取り組みが続けられています。放置される海藻を拾ってきて、乾燥させて塩を抜いて豚のエサにして、それで育てた豚を『鎌倉海藻ポーク』として食品にされている方々がいます。非常においしい豚になるので、ランチメニューとしても出てきたりしています。他にも、使用済みのヨットの帆をもらってきて鞄やのれんを作るリセイルファクトリーさんという会社もあります。さらに神社仏閣は木材が多いので、けっこう品質の良い材料がとれまして、さまざまな古材の収穫源としても有望です」(田中さん)
さらに保育園でも資源回収の実験がなされました。
「保育園からの紙おむつ回収実験もされたことがあります。紙おむつからは再生プラスチックと紙と特別吸水シート(SAP)の3種類の材料がとれます。本当は病院とか高齢者施設のほうが量はたくさん収穫できるのですが、いまのところ保育園で紙おむつ回収をしていて、そこから紙の外壁パネルを作るという実験も、市と企業とでやられています」(田中さん)
レストランとの協働事例もあります。研究室では、香りまで設計に組み込んだバイオプラスチックの研究も進めています。必要な素材の組み合わせから逆算して協力先を探している点がユニークだといいます。
「我々の研究室では、魚とお米と貝殻のカルシウムを混ぜてオレンジの皮で香りをつけることで、香り付きのバイオプラスチックを作る研究をしている修士の学生がいます。魚と米と貝とオレンジを同時にもらえるレストランはないかと議論していて、おそらくスペイン料理屋が最も有効で、パエリアのムール貝と、サングリアに使ったオレンジの皮が欲しいと。スペイン料理屋であれば欲しい素材は全部収穫できるだろうということで、レストランにお声がけしようかなと検討しています」(田中さん)

「ハーベストシティ」とはなにか?マインクラフト的な動機に働きかける
こうしたプラスチックから有機物までさまざまなプロジェクトに取り組んでいく中で、田中さんの研究室のメンバーたちの中では、街の見え方そのものの変化が起きていました──そうした見え方を、概念として育てるために立てたキーワードが「ハーベストシティ」(資源収穫都市)です。
「資源を通した街の見方を一度獲得してしまうと、金属やプラスチック、鉄から、食品残渣やバイオプラスチックまで、けっこういろいろ目に入るんですよね。探せば一つの街からなんでも回収できそうだなという感覚が芽生えてきて、この感覚をコンセプトとして育てていこうと思い、『ハーベストシティ』というキーワードを立てて学生と取り組んでみています。無機物や未利用資源など、ほぼ全部の資源を相手にして収穫しようというコンセプトです」(田中さん)
次の課題は、バラバラに進む収穫を「組み合わせる」ことです。異なる未利用資源をかけ合わせると、単体では持ちえなかった価値が生まれます。
「木工加工所から出るおがくずと、お米から出る米ぬかを混ぜて菌をたらしておくと、成長して菌糸ブロックができる。これは発泡スチロールの代替材料になっていきます。複数の未利用資源を混ぜることで別の価値を持ったものが作れるというのが、同時多発的に一つのエリアの中で取り組むことの醍醐味の一つになると思っています」(田中さん)

ここで田中さんは、この世界観がゲーム「マインクラフト」の構造とほとんど同じだと指摘します。とりわけ重要なのは、それが環境配慮とは別の動機に訴えているという点です。
「この世界観はマインクラフトそのものなんです。いろいろなアイテムを集めてクラフトするのはもちろん、いろいろな店をたずねて『ムール貝の殻ください』などともらいに行く感覚もロールプレイングゲームと似ています。『地球環境のためのサーキュラーなまちづくり』といったニュアンスとは、ずいぶん違った人間の動機に働きかけていると思います。資源を集めてものをつくることのほうに重きがあって」(田中さん)
そして今最も注目しているのが、朽ちるインフラや解体建築から出るコンクリートだといいます。
「最後に、いま収穫したいと考えているのが、コンクリートです。コンクリートはこれまでリサイクル優等生と言われていて、路盤材として使う出口があったのですが、実は路盤材のニーズがもうなくて。そんなに長い道路を作るニーズが、日本社会全体にないんですね。ですから、裏山などにコンクリートガラが不法に積まれている状況となっているんです。
そこで別の出口を探していたところ、コンクリートを使って魚の住処を作るプロジェクトが、世界中にけっこうあることに気が付きました。魚や珊瑚を育てたり、小魚向けのシェルターを作ったり。我々もコンクリートを使ったサンゴ礁着床具を設計するということを細々とやっていたので、使えなくなったコンクリートを全部形を変えて相模湾で実験できないかと考え、『相模湾漁礁プロジェクト』を最近立ち上げました。
この計画では60年という時間の経過が一つの鍵になります。60年経ったコンクリートは中性化してアルカリ性が抜けているので、わりと入れ頃ではあります。ただアスベストが残る、あるいは除去の問題など、いろいろと難しい問題もありまして。これからの精密な研究が必要です。時間をかけて積み重ねていく長期プロジェクトになると思います」(田中さん)

無機物から始めて有機物へと折り返すこの構想は、ハーベストシティの二周目にあたると言います。
「最初の収穫物はコンクリートの収穫なので無機物ですが、無機物を通じて魚とか海藻とか有機物が豊かになっていって、有機的な世界も同時に回していくという形になります。そして最終的には、漁業や海の事業に対して新しい風を吹かせられるといい。そんなことを考えていまして、今後はこの『相模湾漁礁プロジェクト』が研究室の中核になっていくと思います」(田中さん)
「中都市」からこそ、ハーベストシティは立ち上がる
こうした「ハーベストシティ」という構想は、リサイクル率全国1位(中都市部門)の鎌倉市という特殊なエリアでしか成り立ち得ないのでしょうか。田中さんはこうした鎌倉での実践を他の都市へとひらくために、この現象が成立しうる、三つの条件を洗い出しました。
「1つ目の条件は『産業多様性』です。山があったら、竹や山の資源が獲れる。海があったら、海藻やヨット、海の資源が獲れる。さらに陸には、住居があってレストランもある。一次産業から二次産業、三次産業が多様に混ざっていれば混ざっているほど、バラエティに富んだ資源が収穫できます。
そして2つ目が、『時代の多様性』。『多時代堆積性』とも呼んでいますが、同じ時代に全部できてしまった街だと、土木や建築由来の資源がバーっと全部同時に出てきてしまうので、成立した時代がバラバラで、順繰りに古くなって、順番に朽ちていってくれる街のほうがやりやすいんです。
さらに3つ目が、『中都市』であること。だいたい鎌倉だと電動自転車で30分でどこからどこまでも行けて、ぐるっと回るのも1時間ちょいのコンパクトさがある。人口規模で言うと、鎌倉は人口が約17万人で、近い人口の都市を日本中であぶり出すと、城があったりなど歴史がある街、あるいは観光地になりやすい要素、小規模な農業、漁業などがありそうな街が多い。
自治体の規模と、陸海山と、歴史のストックと、産業の多様性と……これらがどのぐらい重なっているとハーベストシティになりやすいのかというのが、いま関心のあることです」(田中さん)

中都市に着目する根拠は、政策の側からも浮かび上がります。田中さんは環境省が示す「地域循環共生圏」の四分類を参照し、そこに存在する空白について指摘しました。


「これは環境省が日本の地域循環共生圏を四つに分類して、それぞれの都市に合わせて、『こんなことをやると資源循環ができますよ』と示したものです。この中に『中都市型』というものがないんですよね。実際に中身を見てみると、この『里地里山里海型』というところで推薦されているメニューの半分ぐらいは、実は鎌倉で実施されています。さらに『大都市/近郊型』ということで推薦されているものも、半分ぐらいは鎌倉で実践されている。要するに中都市型というのは、大都市型のメニューと里地里山里海型のメニューを半分ずつドッキングしたものだと思うんです」(田中さん)
ただし田中さんは、これを一般化しすぎることには慎重にもなっています。なぜなら、中都市モデルには複数のタイプがありうるという見立てを取っているからです。
「資源多様性と活動多様性が両方混ざると、私のいう『ハーベストシティ』的なアクションが起きやすいのではないかなという仮説をもっています。今日お話ししたのは中都市モデルと言ってもあくまでも鎌倉に向いていたタイプで、例えば名古屋近辺に多い『動脈産業集積地』などは、動脈産業モデルと何かのハイブリッドが適切かもしれません。川崎や北九州などの『エコタウン』にも、そこにはそこの融合型というのがあるのだと思います。鎌倉は鎌倉で、そういう資源の多様性と、さまざまな市民活動の多様性みたいなものをいかにして絡み合わせるか、という方向性でいま動いているところです」(田中さん)

田中さん自身、「鎌倉だからできたのではないか」という問いに繰り返し直面してきました。その思いから、フィールドは相模湾一帯へ広がりつつあるといいます。
「周りを見渡してみると、実は相模湾一帯は中都市の集積地なんです。神奈川県は横浜、川崎、相模原という三大政令指定都市と、残りの細かな中都市の集積体で構成されていて。鎌倉から東に行けば逗子、葉山、三浦。西に行けば藤沢、茅ケ崎、平塚、大磯、二宮、小田原という、どれも小都市から中都市サイズなので、そこまでフィールドを広げていこうと思っています。例えばビーチクリーンは大磯町のほうが盛んだったり、コンポストは葉山のほうが盛んだったりと、わりと相模湾地域でも、資源収穫という活動の多様性が見えてきています」(田中さん)
街に「作業場としての庭」を増やすために
こうした「ハーベストシティ」をめぐる実践と思考を踏まえ、プレゼンテーションの最後に田中さんは、庭プロジェクトの主題に立ち返ります。研究会に参加しながら長く抱えてきたのは、「庭に植物は必要なのか?」という問いでした。
「庭プロジェクトに参加してきた中で、『庭は植物を必要とするのか?』という問いについて、ずっと考えてきました。以前、都市史・建築史研究者の松田法子さんがゲストに来てくださった回のときに、庭そのものは作業場であって、植物というニュアンスが出てくるのはむしろ『園』であるというお話をされていました(「湧き水」から考える、人間「外」とかかわる都市のかたち|松田法子)。『Garden』にすると植物がくっついてきてしまうけれど、『庭』だけ取り出すと作業場であると。ただし定義としては開かれている、というのが印象に残っています。
それと関連して、今日は未利用資源の発掘の話をしてきましたが、もう一つ未利用空間の再利用という研究ジャンルがあって、そこでの議論に接続したいとも考えています。スポンジ化現象や、都市空間のなかの未利用の空間をどうするかといった議論を見ていると、『緑』に向かうものが多いなと感じるんです。基本的には、従来の公園=植物のイメージで未利用空間を使おう、という提案が多く見えます。でも私はどちらかというと、作業場という松田法子さんの定義の庭を当てはめて考えてみたいなと思っています」(田中さん)
そこで都市の余白の使い方の可能性として田中さんが挙げたのは、ストックヤードとしての活用法でした。その先に、来たるべきハーベストシティの風景を展望しているといいます。
「『ハーベストシティ』のように資源を回収する営みをしていると、必ず必要となるのは保管所なんですよね。資源のストックヤードが、必ず必要になる。都市の余白をまずは資源のストックヤードとして活用するという試みが、もう少し広がってもよいのではないかなと思います。緑の公園を作ること自体を否定する気はないのですが、一部をストックヤード的な開放の仕方をするというのがあってもいいのではないかと思います。
将来的には、都市の未利用空間に地域で収穫したストックをして貯めておいてもらえれば、そこに車両型のラボが出かけていって、処理をして、何か作って、また移動する……といった仕組みがあり得るのではないかと思います。何種類かの異なる機能を持ったものづくりの工作機械を積んだ車両が余白に集まっていて、収穫した資源から何かを作り、それが移動しながら広がっていく。それが、私が考えているハーベストシティの一つの風景です。
また今日はハーベストシティという言葉で説明してきましたが、Urban HarvestingやUrban Miningという学術的な分野もあるので、そうした領域も横目で確認しつつ、これからも中都市モデルとしてのハーベストシティの実現可能性を考えていきたいです」(田中さん)
[了]
この記事は小池真幸が構成・編集をつとめ、2026年8月20日に公開しました。



