皆さんこんにちは。「物議を醸すモノづくり」が得意な情報科学者、栗原一貴と申します。2012年に珍妙な賞として世界的に知られている「イグノーベル賞」を受賞し、自らのマッドサイエンティスト人生を運命づけられました。現在は「秘境の女子大」と巷で呼ばれているらしい津田塾大学学芸学部情報科学科で、リケジョの育成に邁進しています。
 拙著『消極性デザイン宣言』で私は、一対一、あるいは一対少数のコミュニケーションにおける「自衛兵器」の研究を紹介しました。
 おしゃべりな人を邪魔する銃「スピーチジャマー」、性能の悪い人工知能の暴走を装って自分のスマートフォンやパソコンの画面を覗く人を撃退する「PeepDetectorFake」、耳の「蓋」として働くことで聞きたくない声や音を遮断する「開放度調整ヘッドセット」、そして人の目を見て話せない人のために視界のすべての人にモザイクをかける「視線恐怖症的コミュ障支援メガネ」などです。

▲「スピーチジャマー」
▲「PeepDetectorFake」

 さて、第3回では、消極性デザインによって身近な環境改善を図る事例として、音声エージェントのアレクサを用いた育児について論じました。

 本日は、「物議を醸すモノづくり」の最近の事例として、「The Universal Background Filter」と「痴漢冤罪対策音ゲー」を紹介します。身近な(?)社会問題に対して、ある種常軌を逸したモノづくりで挑みます。

The Universal Background Filter

 まず小さなところから。
 こちらのリンクは、私のFacebookのプロフィール写真です。よろしければ御覧ください(動画になっているので、再生ボタンを押す必要があるかもしれません)。

 冴えない男で申し訳ありませんが、主にお話ししたいのは、私の肖像ではなく背景のことです。このチカチカする背景、実は意図してそのように作っています。

 少し前のことになりますが、2015年のパリのテロのあと、Facebookが「自分のプロフィール画像の背景をフランス国旗にして哀悼の意を示そう」という画像加工サービスをはじめました。多くの著名人、そしてあなたの身の回りの方々も、しばらく背景がトリコロールカラーになったことと思います。

▲プロフィールの背景をトリコロールにするザッカーバーグ氏(画像出典

 私はといえば、もちろんテロの犠牲者を気の毒に思う一方で、なんとなく流行りに流されてプロフィール画像を自分にあまりゆかりのない特定の国にすることに抵抗を感じ躊躇しておりました。自分にあまりゆかりのないハロウィンイベントに仮装して参加するのを躊躇するのと似たような気持ちです。一方は哀悼で、一方はお祭りですから、比較して論じるのも不謹慎でしょう。しかし結局フランス国旗背景の方々がFacebookでポストし続けているのは、日常のおいしい、かわいい、ためになる、などですから、喪服を着ながらはしゃぐのと似たようなもので、それもそれで不謹慎さを感じます。

 消極的な人は、考え過ぎな人。流行りを流行りとして取り入れて、日常に彩りを与えたり楽しんだり、人と共感したりすることに対し、素直になれない人たちだと自己分析します。

 一方、世界的な流れを追いかけてみますと、その後Facebookのこの機能に対し、「パリだけじゃないだろう。全世界の平和を祈るべきだ」という批判が相次ぎました。
 超・積極的な人からすると、フランスだけでは手ぬるいというわけです。世界平和。大変結構なことですね。
 私はこの主張に感じるところがあり、自分の心のモヤモヤを自画像的に表出させたくて、文字通り全世界の国の国旗を背景にすることで平和を消極的に祈るプロフィール画像加工アプリ「The Universal Background Filter」を作りました。
 ちょうどFacebookが動画によるプロフィール画像の登録を開始した時期だったので、私のFacebookプロフィールはそれ以来、このアプリで加工したものになっています。

 数秒以内という制限のあるプロフィール動画の中で、全世界の平和を祈れるよう、超高速で全世界の国の国旗を切り替えています。その結果、どうでしょうか。速すぎてどの国旗もほとんど見えません!

 私はこの結果に対し、失望と納得の入り混じった奇妙な気持ちになり、とても気に入りました。
 私はたぶん、フランスとかベルギーとか特定の国に限定せず、世界中のすべての国の平和を思っています。でもそれは、つまりどの国もたいして思っていないのと同じということです。
 平等に何かに思いを寄せるというのは、キレイなようで、同時にとても薄っぺらい気持ちであることがわかります。まさに薄っぺらい、自分にぴったりのプロフィール画像だなと思いました。

 無理やり効用を挙げるとすれば、以下のようなことが言えるかもしれません。テロは私たちの過剰反応を得るのが目的の一つであるので、予めすべての国への配慮を表明していれば、どの国に今後テロが起きてもすでに「配慮済み」ですから、特段なにもする必要がありません。それによって結果的にテロに与しないという意思表示になります……たぶん。

 時事ネタとして特定の国のテロを悼み、たくさんの友人とともに自分のプロフィール画像の背景をその国の国旗にし、盛り上がるとともに消費していく。
 普段から人知れずこの技術によってすべての国の平和を祈っているが、微量すぎて誰も気づかないし、自分自身もそれぞれの国への思いの至らなさを自覚している。

 あなたはどちらの自分を、世界に発信したいですか?

※The Universal Background Filter のソースコードはgithubで公開しておりますので、興味のあるかたはこちらからどうぞ。

痴漢冤罪こわい

 もう一つ、「物議を醸すモノづくり」の事例を紹介します。
 近年痴漢冤罪に関連するニュースを目にする機会が増えていますよね。痴漢に間違えられて線路に逃げ、電車の運行の妨げとなる事件や、最悪の場合、死亡する事故も発生しています。疑われた方が冤罪を訴えても自身の潔白を訴える決定的な証拠がなく結果的に送検されてしまうケースが社会問題として挙げられています。正直に戦おうとしても絶望的な結末しか待っていないとなれば、むしろ逃げたほうがチャンスがある、という心理を生んでいるのでしょう。
 「男性専用車を作れ!」「電車内に監視カメラを設置しろ」という訴えに代表されるような、「攻め」の問題改善アプローチもあると思うのですが、私が注目したいのは「守り」の技術です。
 近頃では痴漢に間違われたときにベストな対応を教えてくれるスマホアプリや、弁護士サポートアプリなどが開発されてきています。また、「どう行動すれば痴漢と間違えられるリスクを少しでも減らせるか」という試行錯誤として、両手を上に上げる、祈るようなポーズをする、などがよいとするテレビ特集が組まれたりもしています。このような自助努力は、消極的な動機から、個人が可能な範囲で自身の環境を改善しようとする営みという意味で #SHYHACK と呼んで良いと思います。

▲電車内では痴漢冤罪の対策として両手で吊り革につかまることも。

 痴漢冤罪対策における「守り」の技術は、消極性デザイン宣言でも考察した「自衛兵器」の開発に他なりません。
 痴漢冤罪は、根底には女性等に対する痴漢行為の横行という社会問題があり、本人が嫌だと感じる行動を意識的あるいは無意識的に周囲の人がしてしまっている実態から生じた二次災害といえます。ですから痴漢冤罪対策技術によって、かえって被害者を脅かすような過剰防衛になってしまっては本末転倒ですので、そうならないデザインを考えることが工夫のしどころでしょう。

LINEを越えて

 「痴漢冤罪対策音ゲー」のアイディアのみなもとは、ネットで見つけた面白い #SHYHACK です。それは、電車に乗っている間にひたすら手にスマートフォンを持ち、LINEのスタンプを連打で送信し続けるというものです。LINEのスタンプにはいつ送信したかに関する時刻情報が付与されるので、後に痴漢の疑いがかけられたときに、「その時間帯に私の手はスマホの画面を連打していたので、痴漢できるような状況ではありませんでした」という証拠になる、という仕組みです。
 特に周囲の人に迷惑をかけるでもなく痴漢冤罪対策ができるという意味でとても優れた取り組みだと私は感心しました。
 しかし、この方式にはいろいろまだ不十分な点があります。
 まず、LINEの送信時刻記録は分単位であって、もう少し細かい単位にしないと特定の瞬間に何をしていたかの証明にはなりにくいです。(もちろん、ソフトウェア的にはもっと細かい時刻を記録しているのだと思いますが、その表示が分単位という意味です)
 そして、たとえLINEの送信記録が残っていても、それがどのような状態で送信されたのかについて、まだ曖昧性が残っています。本当に本人が手の指でタッチしたのか。その時もう片方の手はどうなっていたのか、あるいは本人以外の人間やソフトウェアが別の場所から送信していた可能性はないのか、などです。
 最後に、これは不十分な点というよりも願望に近いのですが、このような痴漢冤罪防止のための活動を、可能ならもっと楽しくできないかという点も検討の余地があると思います。自衛しているのに、本人に自衛の自覚はなく楽しく時間を過ごせること。これって実現可能な最高の自衛の形じゃないですかね。

痴漢冤罪対策音ゲー

 ある日、ゲームの知見を用いて生活や社会の問題の解決を図る「ゲーミフィケーション」について研究をしていた私の研究室の学生(女子大なのでもちろん女性です)が、これらの課題を解決する、目のさめるようなアイディアを出してきました。それは、「両手が必ず拘束されて定期的に指紋認証を要求するような音楽ゲーム(音ゲー)アプリを作る」というものでした。
 それは見た目はスマートフォンで動作する普通の音楽ゲームで、音楽に合わせて音符が上から降ってきます。音符をタイミングよく指でタップするのですが、複数の音符をちゃんとタップするには、手の構造上両手でスマホを持たないといけない位置関係になっています。
 そして、音符をタップするごとに、Twitterにつぶやきが送信されます。そのつぶやきには秒単位で記録された現在時刻、GPSに基づく現在位置、後述のビットコインの最新ハッシュ値が記載されており、ディジタル署名が付加されています。
 これにより、使用者は楽しく音楽ゲームをプレイしているだけで、自然に両手がスマートフォンに拘束され、そしてその拘束の事実がTwitterにより逐次記録されていくのです。もし痴漢を疑われた場合は、このつぶやきを見せ、「少なくともこの時間は私はこの緯度経度にいて、私の両手はふさがっていた」ということを主張することができます。

▲音ゲーのプレイ画面イメージ(画像出典

Proof of Life

 このアプリのキモは、「どこまでつぶやきの改ざんが無いことを示せるか」という点につきます。本当に本人がその場所で両手を拘束した結果により生じたつぶやきなのか、という疑問に答える必要があります。
 まず、このアプリは頻繁に指紋認証を要求します。それにより、使用者の生身の指がアプリを操作していることが保証されます。そして、アプリはユーザーにすら知らせないRSA秘密鍵を持っており、その鍵で行ったディジタル署名をつぶやきに含めることで、確かにそのアプリがつぶやきを行ったことが示せます。その署名の検証(確かにそのアプリがそのつぶやきを行ったということ)は、つぶやきに付随しているリンクから誰でもいつでも行うことができます。
 そして、ビットコインの最新ハッシュ値の活用です。これはWikiLeaksで有名なジュリアン・アサンジ氏が、自身の生存を証明するのに用いた手法です。

 ビットコインの最新ハッシュ値というのは10分おきくらいに更新され全世界で共有される単一の文字列で、過去の時点から予測するのが困難であるという特徴を持っています。ですので最新ハッシュ値を示すことで、そのデータが生成されたのがそのハッシュ値の生成時刻より少なくとも後であることを示すことができます。つまり過去のある時点でデータを捏造している可能性を否定できます。ジュリアン・アサンジ氏は、それを用いて「今私は最新のハッシュ値を知っているので、少なくとも今生きていることが証明できます」と全世界に伝えたわけです。その日発行された著名な新聞とともに自身の写真や動画を撮影し公開する、という手法の現代版といえます。

▲時々刻々と更新されるビットコインのハッシュ値(画像出典

 もちろん、この痴漢冤罪防止アプリは、セキュリティの専門家からすればまだまだ至らない点はたくさんあるのでしょう。私の知識の範囲でも、アプリ自体のプログラムがハッキングされたらどうするか。Twitterのデータベースが改ざんされたらどうするか。複数の犯人グループによる連携をどう防ぐか、などについては充分に検討されていません。本来なら、Ethereumなどを用いて実装可能なスマートコントラクトの技術により、Twitterではなくブロックチェーンに直接ゲームプレイ時の情報を記録していけば、より厳密なしくみになるんでしょうけどね。また、そもそも両手がふさがっているからと言って、痴漢していないことにはすぐには結びつきません。体を密着させるような行為であれば、だいたい痴漢の対象となりますからね。それでも、可能な技術的対策をすべて行っていくことで、少しでも痴漢冤罪の被害を減らしていく、というのが現実的なアプローチと信じています。

求む! 物議を醸すエンジニア

 実はこの痴漢冤罪対策アプリ、結構面白いアイディアだと思うのですが、時間的にも人的にもリソースが足りなくて、すぐ皆さんにお使いいただくレベルには開発が至っていません。研究を進めた学生も卒業してしまいました。
 皆さんの中で興味と技術をお持ちの方はいらっしゃいませんか? 一緒にプロジェクトを進められればと思います。あるいはクラウドファンディングで支援を募ることも良いかもしれませんね。
 特に私と綿密にやり取りしていただかなくてもかまいません。同じ志をもって、痴漢冤罪防止音ゲーアプリを独自に開発していただき、公開していただければ、私もすぐダウンロードして使います。『消極性デザイン宣言』で議論した、「共創の輪は『自分勝手』で広まる」の原理ですね。

※「痴漢冤罪対策音ゲー」はこちらの論文にまとめ、学会で発表しました。

消極性と、物議を醸すモノづくり

 今回は2つの「物議を醸すモノづくり」を紹介しました。これらに共通するのは、「その動機なの!? そして、それに対して、その解決策なの!?」という二重の意外性(あるいは呆れ)ではないかと思います。
 消極性とこのようなモノづくりには、深い関係があると思います。

 まず、消極的な人というのは、どこか繊細な傾向があるように思います。彼らは社会や日常生活に対する違和感を敏感に感じることができます。
 「へー、そこに問題があったのか」と世の中の人に知らしめることができる。それだけでも、とても立派で重要な社会貢献だと思います。多様化の時代は、どんどん人々が「ふつう」という幻想から細分化され、なんらかの「マイノリティ」に属していく時代だと思います。「マイノリティ」という言葉がなくなり、ただの多様性の現れと社会に認知されるまでには、彼らが自ら問題だと感じることを世の中に知らしめて、より良い共生の道を図っていくことが建設的だと思います。

 そして、消極的な人は、自身が提起したその問題に対して、さらに驚きの解決方法を提供します。
 痴漢冤罪防止のために、両手を上げるという、見た目が奇妙である対処法を最初始めた人、その人は特に高度な技術を用いたわけではないですが、「私は問題を感じている。そしてその問題は私にとってとても重要なので、このような奇妙な行動をすることも厭わない」という崇高・悲壮な決意表明を感じます。

 あるいは、ごく近い未来の電車内。乗客は皆、音楽ゲームに夢中。漏れ聞こえる音楽は、有志の有名Pプロデュースによる人気ボカロ曲「ゲームに逃げるは恥かもしれないが役に立つ ~STOP痴漢&痴漢冤罪~」だったりして……。これも異様な光景かもしれませんが、狭い車内で乗客が揃って両手を上げたり祈るようなポーズをしている、すでに異様な現状よりは、まだ救いがあると思いたいです。あるいは、このようなモノづくりによって今よりもっと異様な状況にしてしまって、世間に対して議論を投げかけたいですね。

 消極的に考え、消極的に解決しようとするけど、その解決法はどこかアグレッシブである。これこそ、私の考える「物議を醸すモノづくり」です。

※最後におまけです。私は現時点でのビットコイン最新ハッシュ値をQRコードとして表示するWebサービスをこちらで公開しています。これをスマホに表示して記念写真を取れば、少なくともその時点まであなたが生きていたことを証明できます。アリバイ証明したい人、未来に向けて自分の存在を訴えたい人はお試しあれ☆

(了)

この記事は、PLANETSのメルマガで2019年3月20日に配信した同名連載をリニューアルしたものです。あらためて、2021年1月11日に公開しました。